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着物は自由(8)大正〜昭和期 令嬢の装い

東京国立博物館工芸室長 小山弓弦葉

Source: Nikkei Online, 2023年8月22日 2:00

画像提供:東京国立博物館 Image: TNM Image Archives

矛盾するように聞こえるが、近代以降の和装文化は日本人の洋装化とともに歩んできた。明治政府のもと公の場における男性の洋装化が一気に進んだが、女性の洋装化は限定的だった。鹿鳴館時代をピークに進められたが、日常着やお出かけ着として女性たちが選んだのは従来の着物だった。

しかし、そのような時代の流れの中で定着した和装には、洋装に準じる着装やデザインが取り込まれた。裾を長く引きずるスタイルをやめて、帯を結ぶ前に「おはしょり」をして丈を腰下部分で引き上げる独特の着装方法が一般化した。帯結びは、江戸・深川の芸者の間で行われていた「お太鼓結び」が普及した。お太鼓結びは後ろでたたんだ帯がずり落ちてこないように「帯留(おびどめ)」という飾り紐が必須であった。

明治期の初め頃、帯留の紐に刀装具のような飾りをつけておしゃれを楽しむようになった。やがて、洋装化の洗礼を受けた日本女性は色とりどりの宝石にも魅了された。明治末期から大正期になると、宝石をちりばめた飾りがついた帯留や指輪などが和装に取り合わされるようになるのである。この時代に流行った様々な工芸細工の帯留には、和装のおしゃれを楽しんでいた女性たちの息吹が感じられるのである。
(20世紀前半、夏の友禅染振袖に丸帯、宝石付の帯留、個人蔵)