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秋さやけく(7)福田平八郎「静物(松茸栗之図)」

滋賀県立美術館主任学芸員 田野葉月

Source: Nikkei Online, 2023年10月3日 2:00

月の満ち欠けで農作業を把握する太陰暦では、とくに収穫期にあたる中秋の名月に、豊作を祈って薄(すすき)と月見団子を供えた。稲が実るには早いため薄を代わりにし、旬の芋を供える地方も多い。本作は秋の味覚を代表する松茸(まつたけ)と栗の静物画で、朱漆盆にきれいに配置された供え物にも、また食される前の秋の味覚の象徴にも見える。

福田平八郎は美術学校卒で画塾に属さない。修得した伝統技法に行き詰まり、相談した美学美術史教授の中井宗太郎が、客観的な自然観察を勧めた。観察はリアルさを追究する手段としての写生ではなく、対象の見方や記憶の仕方を指す。

本作は国旗を連想するような鮮やかな三色が、余白のない色面を構成する。平八郎が対象から一番強く感ずるのは形や線でなく色彩で、対象物に限らず背景物まで一緒に描きとる写生姿勢を持った。造形性に軸足をおく色の取り合わせは、画面を秩序的に構成するデザイン的センスを感じる。日本画が明治時代から課題とした理想主義と写実主義の二項対立を越えた、構成主義的な方向性と捉えられるだろう。
(1956年ごろ、絹本著色、額装、53.3×72.7センチ、ウッドワン美術館蔵)