消費者操る「ダークパターン」 国内サイト 6割該当

【イブニングスクープ】データの世紀

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Nikkei Online, 2021年3月27日 5:21更新

ネット通販などのサイトで、消費者のスキを突いて余分な注文などを促す仕掛けが横行している。「ダークパターン」と呼ばれ欧米で規制が進むが、日本では大半が合法とされ対応が遅れている。日本経済新聞の調査で国内主要サイトの6割でダークパターンが確認された。デジタル技術の進化に、消費者保護ルールが追いついていない。


大手通販サイトのアマゾンでは「定期購入」が
初期設定され、1回だけの通常の注文をするには
消費者が選び直さなくてはいけない場合がある

「違法なダークパターンの疑いがある」。政府系のノルウェー消費者評議会は1月、米アマゾン・ドット・コムの有料サービス「アマゾンプライム」に関し、解約が困難で消費者の利益を損ねると指摘。ノルウェー消費者庁に調査を促した。

同様の動きは世界に広がった。ギリシャやフランス、ドイツ、米国などの消費者団体が相次いでノルウェーでの問題提起に賛同を表明。各国当局に調査を働きかけた。

ダークパターンは約10年前に英国で「消費者を欺く」と問題視され、注目を集めた。ネットサービスで退会などの解約を煩雑にするのは「障害」という典型的な手法だ。

米プリンストン大は19年、主なダークパターンを7種に分類。セールの時間制限などを強調する「あおり」、余分な注文のボタンの色などを目立たせて申し込みを促す「誘導」などを挙げた。

ただ既存の法制度に触れるか判断が難しい例もあり、欧米では法の穴を塞ぐルール整備が進む。

例えばメールマガジンの受信同意を初期設定するのは「誘導」に分類される。丁寧な同意取得を義務付ける欧州連合(EU)の「一般データ保護規則」(GDPR)に違反する恐れがある。

米カリフォルニア州は3月15日に消費者プライバシー法(CCPA)を見直し、解約手続きなどのダークパターンを新たに禁止。ワシントン州でもダークパターンによる利用者の同意取得を規制する法案が提出された。

摘発例も出てきた。米連邦取引委員会(FTC)は20年9月、通信教育の「ABCマウス」を「あえて退会手続きを難しくしていた」として提訴。同社は解決金として1000万ドル(約10億円)の支払いに応じた。

プリンストン大のアルネシュ・マトゥール氏は「ダークパターンの使用が企業イメージの低下を招く。今後、自主対応が増える」とみる。民泊大手の米エアビーアンドビーは料金総額を予約の最終段階まで示していなかったが、批判を受けて19年以降、表示を改めた。

一方、日本では企業や行政の対応が遅れる。

「注文した覚えはないのに」。20年末、茨城県の高橋しおりさん(25)は炭酸飲料の24本セットが自宅に突然届き驚いた。差出人はアマゾンジャパン。注文履歴をみると半年前に同じ商品を買った際、うっかり「定期購入」を選んでいたことが分かった。同サイトでは一部商品で定期購入が初期設定されており、「誘導」のダークパターンといえる。返品もできたが自分の見落としも後ろめたく、「もやもやしつつ、あきらめた」と話す。

日本経済新聞は20年12月、国内の消費者向け主要100サイトでのダークパターンの利用状況を調べた。プリンストン大と明治大に助言を受けて判定すると、ネット通販など62サイトでダークパターンを確認した。

プリンストン大が19年に米国の約1万1千サイトを調べた際は利用率は約11%だった。日米の調査手法は違うが、日本の利用率の高さが際立つ。

日本で多いのは「誘導」の手法で、58サイトで確認された。うちメルマガの受信の初期設定が51例、商品の定期購入が自動的に選択されているものが2サイトあった。ただ現行法では大半は合法とみられる。多くの企業は「改善余地はあるが違法ではない」(通販大手)と見直しに消極的だ。

消費者庁は悪質例を防ぐため、特定商取引法の改正に動く。通販サイトなどが定期購入や高額な商品の購入について、虚偽やわかりにくい表示で消費者を誤認させた場合、懲役刑を含む刑事罰の対象とする方針だ。

対応の遅れのしわ寄せは既に消費者に及んでいる。国民生活センターによると、20年4月から21年1月末のネット通販に関する相談は約22万件で前年同期より3割増。「キャンセルできない」など、ダークパターン絡みとみられる内容も多い。

企業側の相談に乗る河崎健一郎弁護士は「日本企業の問題意識はまだ低い」と指摘。「高齢者のネット通販利用も増える中、サイト上での適切な手法を見直す議論が大切だ」と話す。

(綱嶋亨)

「他社も同じ」 日本企業で進まぬ見直し

日本経済新聞の調査で、国内の消費者向け主要サイトの6割で消費者に不利な選択を促す「ダークパターン」が確認された。多くの企業は「他社も同じ」などと改善に消極的だ。

最多例はメールマガジン配信の「誘導」だ。51サイトで「受信に同意」に初期設定していた。

アマゾンと健康食品販売のサントリーウエルネスのサイトは初めから「定期購入」が選ばれ、より多くの注文に誘導される例がみられた。ディーエイチシー(DHC)とQVCジャパンのサイトでは会員退会を電話に限る「障害」の仕掛けが確認された。

ただ、いずれも日本では合法とみられる。大半の企業は「一般的な手法」と説明した。

改修の動きは少ない。

JTBの宿泊予約サイト「るるぶトラベル」は予約プランの大半で「もうすぐSOLD OUT」と表示。空きが多い場合もあったとみられるが、同社は「表示基準は非開示」とした。調査では「あおり」手法と判定した。現在は表現が「空室あり!」に変わった。

明治大の中村聡史教授は「企業にとって短期的なアクセス数などは数値化しやすく、長期的な悪影響は無視されている」とみる。サイト設計が現場任せの例も多く経営幹部などの総合的な判断が改善のカギになる。

日本経済新聞社の運営サイトでも、メール配信を必須にしたり解約を電話連絡に限ったりするダークパターンが見つかったため、順次、改修しています。適切なサイトデザインに関するガイドラインも作成しました。日経グループ各社で運営するサイトについても点検し、利用者の利便性を高める改善を進めていきます。

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