Nikkei Online, 2021年4月10日 2:00
最近、iPhoneでアプリを立ち上げると、こんなメッセージが出てこないだろうか。
「○○が他社のAppやWebサイトを横断してあなたのアクティビティを追跡することを許可しますか?」
選べる項目は2つ。「Appにトラッキングをしないように要求」もしくは「許可」だ。
実は米アップルはアプリ開発者に対し、このようにユーザーに許可を求めることを義務化しようとしている。この方針を2020年6月に発表し、9月以降に開始しようとしていた。一部のアプリ開発者から反発があり導入を遅らせたものの、この春から義務化される。
そもそも、このメッセージは何を意味するのか。
インターネット上にあるウェブサイトやアプリは、ユーザーの利用動向をトラッキングし、ユーザーがアクセスしたくなる広告を表示しようとしている。単独のサイトやアプリが独自にユーザーをターゲティングするのではなく、それぞれのサイトやアプリが個人情報を集め、他のサイトやアプリと共有する。リアルタイムに広告のオークションが行われ、ユーザーに合わせた広告が表示される。
ユーザーがスマートフォンでどんな情報を検索・閲覧したか、スマホを持ってどこに移動したかといった情報は、ウェブサイトやアプリにはお見通しなのだ。複数のサイトやアプリからの個人情報や位置情報を組み合わせたデータは、ユーザーのプロフィルとして日々更新され、それを基にあらゆる企業や組織が広告を表示できる。
そうした状況にメスを入れようとしているのがアップルだ。
アップルは17年にウェブブラウザー「Safari(サファリ)」にインテリジェント・トラッキング防止機能を搭載した。これにより、ユーザーが企業に対してトラッキングを許すかどうかを選択できるようにした。
さらに、まもなく配信されるiPhone向けOS「iOS 14.5」では、アプリのトラッキングを許すかどうかをユーザーに確認することが義務化される。現在メッセージを出しているアプリは、それを先取りしているのだ。
ユーザーが「トラッキングしないように要求」を選んだ場合、アプリ開発者はIDFA(端末識別子)やユーザーのメールアドレス、電話番号などにアクセスできなくなる。これによりユーザーは「どうして似たような広告が次々と表示されるのか」という気持ち悪さから解放される。
一方、広告をメシの種にしてきた企業からは「食いっぱぐれるのでは」という危機感が出ている。「この機能のリリースが遅れたのは、広告を事業の柱にしてきた大手企業からの反発があったのではないか」と考える向きもある。
アップルは個人のプライバシーを守りつつ広告業界を発展させる取り組みとして、広告キャンペーンの効果を測るツールを新たに開発した。
例えば、広告を表示した後にそのアプリがインストールされた回数を広告主に知らせたり、ユーザーをウェブサイトに誘導する広告の効果を広告主が測定できたりする。いずれの場合も広告主がユーザーを特定したり追跡したりはできない。
アップルがプライバシーを保護するうえでこだわっているのが「透明性」だ。アプリを新たにダウンロードする際には、アプリがユーザーのどういったデータにアクセスするかをすべて明示することになっている。ユーザーはどのデータが使われるかを確認したうえでダウンロードする。
今回の取り組みで、アプリのトラッキングを許可するかどうかをユーザーが選べるようになる。設定の「プライバシー」という項目で、後から変更も可能だ。
日常生活でスマホが必需品になるなか、連絡先や写真、位置情報、大量のメール、ウェブの閲覧履歴など、個人の大切なデータが膨大に蓄積されるようになった。
アプリは、それらの情報を基に個人のプロフィルをつくり、他のアプリと共有することで、そのユーザーが興味を持ちそうな広告を表示してきた。これにより効率的に購買行動につなげていた。
ただそうした個人情報の活用は、あくまでユーザーが正しく理解し納得したうえで行わなくてはならない。これまでのウェブサイトやアプリは、ユーザーにわからないように水面下で個人情報を活用していたといえる。
欧州や米国を中心にプライバシーに関する規制が厳しくなっている。ウェブサイトやスマホで個人情報を扱う企業は今後、ユーザーに対して「どんな個人情報を持ち、どんな風に活用し、個人情報をどこに置くのか」を誠実に伝えていく必要があるだろう。