早期接種にデジタルの壁 現場混乱、
履歴管理に不安残す

手作業で情報入力も

Nikkei Online, 2021年4月22日 5:29更新

5月中旬以降、高齢者への新型コロナワクチンの接種が本格化する。デジタル化の遅れで接種を円滑にするためのシステムが混乱し、接種の人手不足も目立つなど現場は出だしからつまずく。政府は9月末までに接種対象者の全員分のワクチンを確保できる見通しだと説明するが、現場の対応力が至らなければ早期接種に向けた計画がパンクし、経済再開でさらに後手に回るリスクがある。

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川崎市役所では国が配ったタブレット端末が積まれたままになっている。ワクチン接種した個人の記録を全国で一元管理するシステム「VRS」につなぐ予定のものだ。

接種時に個人が示す接種券をタブレットで読み取れば、全国の接種状況をほぼリアルタイムに把握できる。自治体ごとの「予防接種台帳」では全国での情報共有に2~3カ月かかるため、コロナ対応で急きょ導入した。


新型コロナウイルスのワクチンが充填された注射器

タブレットが川崎市に届いたのは高齢者への接種が始まった4月12日まで1週間をきってから。足元の高齢者施設での接種ではほとんど活用されていない。

政府が公表する各都道府県の高齢者接種状況をみると、静岡県や滋賀県、兵庫県などは18日時点でも「ゼロ」。VRSへの入力が滞っている。「システムが複雑すぎて医療施設の人が入力できない」(浜松市)

接種券の汚れでタブレットがうまく読み取れない事例も続出。こうした場合は「手作業での打ち込み」を案内している。

先行して普及するファイザー製のワクチンは原則として3週間の間隔で2回打つ。接種が本格化し、集団接種だけでなく、個別接種も増え始めてくると、いつ1回目の接種を済ませたかを素早く、正確に把握する必要がある。1回目の接種履歴の管理に手間取る現状が続けば、2回目の接種の現場がさらに混乱しかねない。

ワクチンの配送・在庫を管理するシステム「V-SYS」では、接種実績の都道府県別データが不正確に表示されるトラブルも起き、5~14日に機能をいったん停止した。配送管理などに問題は生じなかったが、接種本格化を前にシステムへの不安を印象づけた。

東京都世田谷区は混乱を回避するため、職員がまとめてシステムへの接種情報の入力を代行している。接種が本格化すれば人手に限界が訪れる。

日本はワクチンを少なくとも1回打った人が人口の1%で、英国の5割や米国の4割との開きが大きい。人口の6割と世界で最も先行するイスラエルは予約管理でもデジタルを活用する。まず携帯電話などに接種の資格者というメッセージが送られ、そこから予約できる。2回目の予約は1回目の接種が終わると自動で済ませられる。

シンガポールも政府サイトに登録すると携帯電話に「予約に招待します」とメッセージが届く。そこから手軽に予約できる。接種を受けた女性は「手続きが簡単。接種当日に身分証明のIDを持って行くだけで、あれよあれよという間に終わった」と振り返る。