大手銀行、税収納を電子化
 年600億円のコスト圧縮へ

Nikkei Online, 2021年7月6日 22:00

3メガバンクとりそな銀行は紙でのやり取りが主体だった納税手続きを電子化する。2023年度からQRコードを読み取って自動車税などが払えるようになるのにあわせて、銀行と自治体間の納付書類のやり取りを電子化。煩雑な紙のやり取りを減らし、電子データを一括送信することで自治体側の確認の手間も省く。納税者から銀行、自治体まで紙がつきまとう現在の納税業務のデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めて、年間600億円超かかっているコストの圧縮につなげる。

現在、自治体が自動車税や固定資産税などの納付書類を送ると、納税する個人や法人は①納付書を銀行に持ち込む②コンビニで納付する③「Pay-easy(ペイジー)」などの収納サービスで納付する――の手法がある。国税の約7割、地方税の4割は銀行窓口で支払われており、持ち込まれる納付書類はメガバンク1行で年間800万件規模にのぼる。

問題は生活者が窓口で支払った後だ。銀行は受け取った納付書類を専用の事務センターに集約して仕分け・集計作業しているが、銀行と自治体間のやり取りは電子化されていないため納付書の現物を自治体に送付。約1700ある自治体ごとに納付書の書式が異なるため、機械化できず、多大な労力をかけている。全国銀行協会は税公金の納付業務にかかるコストは銀行界全体で年間622億円程度にのぼると試算する。

事務が煩雑で採算にあわないとして、三菱UFJ銀行は今年3月、店舗がない地域の194自治体の税公金の収納業務から撤退した。

納付書を受け取る自治体の負担も重い。コンビニや銀行から送られてきた納付済みの通知書をもとに納税者のデータと手作業で突き合わせる必要がある。納税額が手書きされている納付書もある。

税公金の納付に伴う社会的コストを減らすため、総務省は23年度以降、地方税の納付書にQRコードを印字し、スマートフォンで読み取るだけで納税できるようにする。同省や全国銀行協会、地方自治体などでつくる検討会は6月、QRコードの規格をとりまとめた。


税金の納付書にQRコードがつけば、その後の
事務手続きはペーパーレスになる

納付書にQRコードが印字されれば、これまで銀行がコストを割いてきた紙ベースの手続きは大幅に減る。納税者がスマホで納税すれば銀行の窓口対応も不要になる。スマホを使えない納税者が銀行の窓口を訪れても、各行で導入が進むQRコードを読み取れる高機能ATMの利用を促すことで、その後の書類送付の処理は不要になる。

スマホや高機能ATMで読み取った納税データは、銀行やスマホ決済事業者(ペイ事業者)が地方税の共通納税システム「eLTAX(エルタックス)」に送信する。金融機関が個別にeLTAXに接続すると、業務が煩雑になったり、追加のコストがかさんだりする懸念がある。

このため、三菱UFJ、三井住友、みずほの3メガバンクとりそな、埼玉りそなの5銀行は、開発を進めている小口送金網「ことら」を税公金の納付業務のハブとして活用する検討に入った。「ことら」がハブとなって銀行やペイ事業者と自治体を結ぶことで、双方の負担は軽くなる。

QRコード納付が普及すれば、年間600億円超のコストの大半を削減できるとみられる。銀行は、これまで事務にかかりきりになっていた銀行員をコンサルティングなどより付加価値の高い業務に振り向けられるようになるほか、自治体も効率的な人員配置が可能になる。銀行界が利用者、自治体双方の利便性向上に汗をかくことで、デジタル化による効率化を前進させたい考えだ。

(三島大地)