感染追跡対策、戦略なき迷走
 接触アプリ4カ月不具合

Nikkei Online, 2021年2月4日 20:45


新型コロナウイルス接触確認アプリ「COCOA」

厚生労働省のスマートフォン向け接触確認アプリ「COCOA(ココア)」が全利用者の約3割で機能不全となった。しかも、4カ月あまりも見過ごされていたのは異常だ。ココアがうまく機能すれば、人手不足に陥った保健所などの業務の負担も軽減できるはずだったのに、未熟な対応が感染抑止の足かせになっている。国の新型コロナウイルス対策は戦略なき〝迷走〟が続いている。

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ココアの障害はグーグルの基本ソフト(OS)「アンドロイド」を搭載したスマホで、感染者と接触しても通知がこないというものだ。2020年9月から続いていた。

この間、新型コロナは急拡大し、1月には1日あたりの新規感染者数が全国で8000人に迫った。アプリが行き渡り、十分に機能していたら相当数の人が接触通知を受けたはずだ。

国は当初、保健所による積極的疫学調査を通じてクラスター(感染者集団)を詳細に追跡する方針だった。だが感染が拡大したことで保健所の業務はパンク。ココアはIT(情報技術)を活用して「人海戦術」の保健所の人手不足を補い、効率的に感染者を追跡するのが狙いだったが、現状はほど遠い。

厚労省によると、陽性者と接触したはずなのに通知がないという問い合わせは「決して多くはなかった」。そもそも、アプリをダウンロードしてもほとんど開かず削除した人も多いのではないか。スマホに載せておくメリットを、一人ひとりが感じにくいからだ。

医学系の学会などは昨年から、講演会参加者らにココアのダウンロードを求めている。イベント会場や飲食店でもココアの利用確認が当たり前になるほど普及していれば、機能不全への苦情が殺到しすぐに修正されただろう。時短営業に応じない飲食店に過料を科すより、感染抑止効果は大きかったかもしれない。

新型コロナ対策を効果的に進めるうえで、感染情報などのビッグデータを集めて分析、利用するシステムは不可欠だ。だが、ココアともつながる新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)も、20年5月の導入開始予定から約9カ月たって、なおフル稼働していない。

感染の発生情報だけでなく診療内容や病状の変化の把握もめざすが、入力に手間がかかり使い勝手が悪いなどの理由で現場に敬遠された。対策づくりに欠かせない感染者の属性データなどの公表も遅れている。ユーザー目線で設計せず、「作ったら終わり」という考え方が災いした。

役所の通知と異なり、アプリは出したら終わりではない。むしろ、そこからの修正や改良こそが重要だ。アプリ開発の受託企業だけでなく、デジタル時代の常識を持ち合わせない厚労省にも問題があったと言える。

台湾やシンガポール、韓国などはアプリやデータの活用で先行する。ITに精通した責任者を置き、アプリなどを使うメリットを前面に打ち出してきた。ユーザーの声を反映してシステムを磨く。個人情報の利用範囲などをめぐり議論もあるが、おおむね人々の支持を得てきた。技術、ルールの両面で日本の対応の遅れは明らかだ。

今後は全国民へのワクチン接種をめざす壮大なプロジェクトが始まる。接種情報をデジタル化し、一元管理できるシステムをつくる。だが、一から開発するのはやめてIT企業のサービスを大胆に活用するなど発想や戦略を変えないと、ココアやHER-SYSの二の舞いになりかねない。

(編集委員 安藤淳)