民間人の「デジタル監」誰に デジタル庁9月発足

デジタル改革関連法①

Nikkei Online, 2021年5月12日 13:00更新

デジタル政策の司令塔となる「デジタル庁」の設置などを盛り込んだ改革関連法が12日の参院本会議で成立した。省庁の縦割りを排し、新型コロナウイルス禍で浮かび上がった日本のデジタル行政の遅れを挽回できるかが試される。


デジタル改革関連法案準備室の立ち上げ式に臨む
菅首相(左)と平井デジタル改革相=昨年9月、東京都港区

菅義偉首相が新たな司令塔として意欲を示してきたデジタル庁が9月1日に発足する。内閣直属の組織として首相をトップに据え、担当閣僚や事務次官に相当する特別職の「デジタル監」を置く。各省への勧告権や関連予算の集約など強い権限を持ち、自治体との調整も担う。

新設するデジタル監は担当相に助言したり事務を監督したりする。菅政権は専門性を重視して民間人材の起用を検討する。デジタル庁は発足時に500人規模の組織とし、このうち120人程度を民間から採用して審議官や課長級などの幹部職にも充てる。

2020年度の経済財政報告(経済財政白書)によると、行政機関など「公務」に属するIT(情報技術)人材は国内IT人材の総数のわずか0.5%にとどまる。シンガポールでは政府職員の7%にあたる2600人が政府のIT部門で働く。米欧にも見劣りする。

民間に偏る専門人材を集めやすくするため、米国などで「リボルビングドア」と呼ばれる雇用慣行につながる設計を急ぐ。官民で人材が行き来する仕組みで、日本にも根付けば民間の最新の知見や技術を政府の政策に取り込める。

IT人材を巡り国内外で獲得競争が激しくなっている。新組織では週3日以内の非常勤や兼業、テレワークなど柔軟な働き方を認める。先行採用者は年収換算で最大千数百万円の給与を用意した。

まず取り組まなければならないのが行政システムの標準化だ。新型コロナの感染拡大を機に行政サービスを巡るデジタル化の遅れが露呈した。各省庁にバラバラに配分していた関連予算をデジタル庁が一元管理する。

システムを標準化し必要な情報を円滑に出し合う環境を整える狙いだが、自治体によっては人材不足などで対応に差が出る可能性がある。

各省が所管する分野の総合調整も担う。自治体が個別で運用している行政システムは総務省と連携し全国規模のクラウドへの移行を進める。医療や教育など準公共分野もデジタル化する。

具体的な目標設定は着手したばかりだ。データ利活用に関する戦略は中長期のもので曖昧な内容にとどまる。

システム統一後に何を実現するかの「青写真」を描かないと民間人材は集まりにくい。情報管理や官民癒着への懸念を払拭しつつ、民間出身の職員にどこまで権限を与えるかの線引きが課題になる。

(竹内宏介)