政府の情報システム「1者応札」7割
 霞が関DX阻む

Nikkei Online, 2021年5月26日 17:04

会計検査院は26日、政府が2018年度に行った情報システムの競争契約のうち7割が1事業者のみの応札だったと発表した。検査院は、受注したIT(情報技術)企業が独自仕様のシステムを開発し、他企業の参入を難しくする「ベンダーロックイン」の懸念を指摘。霞が関のIT人材不足が業者任せを助長する構図も浮かぶ。デジタル庁を旗振り役とした霞が関のデジタル化の推進には専門家の育成が急務だ。

検査院は、18年度に政府が情報システムの整備を発注した契約のうち契約金額が3000万円以上だった755件を調査した。423件の競争契約のうち「1者応札」は74%(313件)を占めた。予定価格に対する契約金額の割合(落札率)は2者以上が入札した場合の平均82.5%に対し、1者応札は同96.0%に達した。1者応札には契約額を高止まりさせ、システムの機能向上を阻害する恐れがある。

今回、検査院が問題視したのが「ベンダーロックイン」の存在だ。システム開発を受注したIT企業(ベンダー)が独自仕様の設計・開発を行うことで、他企業への乗り換えが困難になる。企業側は応札額を低く抑えてでも新規契約を勝ち取れば、改修契約を継続できるため安定した利益が得られるという。

今回の調査でも、情報システムの設計・開発に関わる競争契約の1者応札は「新規開発」(59.2%)に比べ、「改修」(94.1%)が大幅に高い結果となった。中央省庁で契約手続きを担当する50代の男性職員は改修契約について「1者応札を避けるため広く募集をかけているが、競合相手が集まらない。システム解析などコスト面で不利だと感じるようだ」とこぼす。

新規開発の約6割が1者応札となった理由については、大手IT企業の元役員が「官公庁向けの独特な営業活動がある」と明かす。官公庁のシステムは入札までに1年以上かかる場合がある。企業の営業担当者はこの間、官公庁の担当者に自社の最新技術に関する情報提供を続ける。入札要件に自社でしか実現できない内容が反映されれば「成功」だ。他社は入札にすら参加できないという。

霞が関のIT人材不足も「1者任せ」の要因だ。ある省庁の男性幹部は「省内にはシステムの仕様を精査できる人材がいない。企業に言われるがままに契約することもある」と明かす。1者応札の解消に向け、ある経済系官庁の担当者は「特定の仕様となっているシステムの改善を図りたい」と語るが、頻繁に部署異動がある人事制度の下では、企業の設計に継続的に目を光らせる人材は育たない。

厚生労働省が主導して開発した新型コロナウイルス接触確認アプリ「COCOA」では、一部の基本ソフト(OS)が機能しない致命的な不具合が4カ月にわたり放置された。厚労省は「知識や経験が非常に乏しく、人員体制が不十分だった」と認めた。

20年度の経済財政白書によると、国内のIT人材のうち官公庁など公的部門に属するのは0.8%にとどまる。一方で米国は10.7%に上り、多様な部署への配置が可能だ。

9月発足のデジタル庁は霞が関のデジタルトランスフォーメーション(DX)を一手に担う。菅義偉首相は「複数の省庁に分かれている関連政策をとりまとめ、強力に進める体制」と強調する。政府調達に詳しい上智大の楠茂樹教授(経済法)は「デジタル庁がDXの司令塔となり、IT関連の調達マニュアルの作成や、各省庁のシステム発注のサポート役を担う必要がある」と指摘している。