75歳以上の医療費2割負担、対象巡り溝 経団連と医師会

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75歳以上の医療費窓口負担を2割に引き上げる範囲を巡る議論が本格的に始まった。経済界や自民党の財政再建推進本部の小委員会は低所得者を除く全員を対象とするよう主張する。厚生労働省や日本医師会は受診控えを懸念し、所得が比較的高い層に限る案を検討する。隔たりは大きく、年末の最終決定に向けた調整は難航しそうだ。

菅政権は安倍政権が掲げた全世代型社会保障改革を引き継いだ。医療費については年齢で区切るのではなく支払い能力に応じた負担に見直す。現在、75歳以上の窓口負担は1割が原則で70歳未満(3割)や70~74歳(原則2割)より優遇されている。

経団連は30日、低所得者以外は原則として2割に引き上げるべきだとの見解をまとめた。健康保険組合連合会(健保連)や全国健康保険協会(協会けんぽ)、連合なども協調し、近く厚労省に提言する見通しだ。

75歳以上の人は約1700万人いる。このうち住民税が非課税の低所得世帯は40%の685万人だ。年収約383万円以上の「現役並みの所得」がある7%の人は3割負担になる。経団連や健保連などの主張に沿うと、5割超の900万人が2割負担になる。

自民党の小委員会がまとめた報告案も原則2割負担にするよう政府に求めている。1割負担を維持する低所得者の対象も絞るべきだと明記した。75歳以上の低所得者は1カ月の外来負担の上限額を8千円に抑える仕組みがあり、既に手厚い配慮がされているとみる。

厚労省は負担が増える範囲をより狭める案を検討している。例えば年収240万円以上、383万円未満の人に限定すると対象は約200万人になる。高齢者向けの介護保険制度で所得の上位20%が2割負担となっているのに合わせるイメージだ。

日本医師会の中川俊男会長は28日の記者会見で、新型コロナウイルスの感染拡大で医療機関の受診を控える動きが広がっていることに触れて「さらなる受診控えを生じさせかねない政策で、高齢者に追い打ちをかけるべきではない。危険性が極めて高い」と述べた。高齢者の受診控えは医療機関の減収につながる。

医療保険制度は高齢者の自己負担が増えるほど現役世代の保険料負担を抑えられる。保険料を負担している経済界には、世代間の公平性を高めるべきだとの考えがある。厚労省や医師会は受診控えによって病状が悪化すれば、医療費が逆に増えかねないと主張する。

2022年には団塊の世代が75歳以上の後期高齢者に入り始め、医療費は急膨張する公算が大きい。現役世代が支払う保険料が増え続ければ、消費の足かせにもなりかねない。

政府は22年度までの2割負担導入をめざし、21年の通常国会に関連法案を提出する想定だ。衆院解散・総選挙が念頭にある与党が痛みを伴う政策を避けようとするとの見方もある。対象範囲が狭まれば改革の効果は薄まる。