政府は2日から健康保険証の新規発行を停止し、マイナンバーカードに保険証の機能を載せた「マイナ保険証」に一本化する。直近の利用率は1割台と低調だ。普及を進めるには国民の不安払拭とともに、メリットを実感できる環境の整備が欠かせない。
2日からは医療機関で診察を受ける場合には ①マイナ保険証 ②健康保険証 ③資格確認書 ――のいずれかを提示する。2025年12月2日以降は健康保険証は使えなくなるため、マイナ保険証か資格確認書を提示する必要がある。
従来の健康保険証は有効期限内であれば最長1年間は使うことができる。マイナ保険証に登録していない人は2日以降も健康保険証を持参すれば、所定の窓口負担で保険診療を受けられる。
資格確認書はマイナ保険証に登録していない人などに対して順次交付される。氏名や保険者名などを記載したカードで、有効期限は各健康保険組合などが5年以内で自由に設定する。有効期限を迎えた場合、更新される。
資格確認書は銀行口座の開設時などの本人確認書類としても使用できる。現在の健康保険証は最長1年の経過期間を過ぎると、本人確認に使えなくなる。
資格確認書と名称が似た「資格情報のお知らせ」という書類が9月以降、保険者から届いているが、こちらは単独では利用できない。医療機関の窓口にあるカードリーダーがうまく作動しなかった場合に、マイナ保険証とセットで提示する。お知らせの紙が手元になければ、マイナカード保有者向けサイト「マイナポータル」の画面で代用する。
マイナカードの保有者は10月末時点で約9400万人で、全人口の約76%をカバーする。カード保有者のうち82%(約7700万人)がマイナ保険証に登録済みだ。国民の約6割が保有する計算になる。
それでもマイナ保険証の利用は進んでいない。厚生労働省によると、10月の利用率は前月よりも1.8ポイント高い15.67%だった。10カ月連続で上昇したものの、一本化が目前に迫っても普及のペースは遅い。
なかなか浸透しないのは利用に不安を感じる人が少なくないためだ。23年には他人の情報がひも付けられるトラブルが相次ぎ発生した。その後ひも付けミスは解消されたものの、政府への不信感を残すことになった。
メリットがわかりにくいことも一因だ。
マイナ保険証を使えば、過去に処方された薬の履歴を医師や薬剤師に共有し、危険な薬の飲み合わせを防ぐことが期待される。医療費控除の確定申告もマイナポータル経由で必要なデータを取得し、入力の手間を省くことができる。
受診回数の多い患者にとっては大きな利点だが、医療機関に行く機会の少ない若年層などにはメリットとして実感しづらい。慣れ親しんだ健康保険証の代わりに、あえてマイナ保険証を使おうという動機づけにはなりにくい。実際に年齢別の利用率は50〜60代で比較的高く、40代以下は低い傾向がある。
「政府への信頼感と、メリットの実感の両方がそろわないと、行政のデジタル化はうまく進まない」と日本総合研究所の岩崎薫里氏は指摘する。不信感が残り、メリットも浸透しないまま一本化に突き進んだマイナ保険証の利用率が低いままなのは、当然の結果といえる。
従来の健康保険証と形状や効力がほとんど変わらない資格確認書を用意したことで、マイナ保険証への切り替えが頭打ちになる恐れもある。