緊急事態を全面解除 首相表明、臨時交付金2兆円増額

Nikkei Online, 2020/5/25 21:55更新



安倍晋三首相は25日の記者会見で、新型コロナウイルスに関する緊急事態宣言を全国で解除すると表明した。一時は全47都道府県に発令していた宣言は残る東京と埼玉、千葉、神奈川、北海道の5都道県を対象から外し全面解除された。感染対策に取り組む自治体向けの地方創生臨時交付金は今の1兆円から2兆円増額する方針を示した。

■ 「厳しい基準クリア」

首相は宣言の全面解除について「世界的にも極めて厳しいレベルで定めた解除基準を全国的にクリアしたと判断した」と述べた。人口当たりの感染者数や死亡者数が主要7カ国(G7)の中で少なく抑え込めていると説明し「日本モデルの力を示した」と語った。

「社会、経済活動を厳しく制限したやり方では生活は立ちゆかなくなる。感染状況に目をこらしながら来月、再来月と日常を段階的に取り戻していく」とも述べ、早期解除の重要性を訴えた。

「あらゆる活動について感染リスクがあるから実施しないのではなく、どうすれば実施できるかという発想が重要だ」と主張した。その上で「宣言解除をもって新規感染者がゼロになったわけではない。ウイルスとの戦いは長い道のりになる」とクギも刺した。

■ 経済再開は段階的に

解除後は「社会・経済活動を段階的に引き上げてコロナ時代の新たな日常を作り上げる」との方針が柱になる。各業界が作成する感染防止指針に言及し「ガイドラインに沿った感染防止の取り組みに100%を補助する。最大150万円の補助金で街の飲食店を始め中小・小規模事業者の事業再開を応援する」と強調した。

企業には引き続き在宅勤務や時差通勤への協力を促した。「テレワークはコロナ後の世界でも大きな働き方の柱になる」と期待を寄せた。

コンサートなど各種イベントは100人程度から始め、状況をみながら収容人数の50%まで順次拡大する方針を示した。クラスター(感染者集団)が発生した接待を伴う飲食店やナイトクラブなどの事業再開に関しても6月中旬をメドに指針をつくる。「有効な感染防止策が講じられるよう支援する」という。

■ 9月入学、慎重に検討

学校の入学と始業時期を秋にずらす「9月入学」は「有力な選択肢の1つと考えているが、与党では極めて慎重な議論もある」と指摘した。「社会全体への影響を見極めつつ慎重に検討していきたい。拙速は避けないといけない」と語った。

追加経済対策として27日に2020年度第2次補正予算案を閣議決定する。「(第1次)補正予算とあわせ事業規模は200兆円を超える。総額130兆円を超える資金繰り支援をする」との数字を提示した。

事業規模は民間融資なども加えた額となる。日本政策金融公庫や民間の実質無利子・無担保融資の拡充などで経済対策の規模を確保する。国や自治体の支出となる「真水」と呼ばれる部分は全体の一部だ。

臨時交付金の増額は「地方の実情に応じた事業者へのきめ細かな支援」が目的だと訴えた。「コロナ時代の新たな日常のために強力な3本の矢を放つ」とも語った。

■ 10万円支給遅れに反省

一人あたり一律10万円の給付が遅れていることは「IT(情報技術)化が十分に進んでいないことは率直に認めなければならない。マイナンバーと銀行口座がひも付けられていればスピード感をもって対応できた。反省すべき点がある」と話した。雇用調整助成金の手続きに時間がかかる点にも「真剣に反省しなければならない」と述べた。

■ 再宣言の可能性も

感染再拡大のリスクは「感染者の増加スピードが再び高まり、2度目の緊急事態宣言発出の可能性もある」と認めた。「社会・経済活動を制限するやり方はできる限り避けたい」と経済と感染防止の両立を目指す構えだ。

検査体制の強化は引き続き取り組む。全国100カ所近いPCRセンターを拡大する方針を打ち出した。「2兆円を超える予算も積み増し、自治体と協力して医療提供体制を強化していく」と強調した。今後の再流行に備えて専用病床を確保するほか医療従事者などには最大20万円給付する。

■ 6月に接触把握アプリ

感染状況の監視強化に向けては6月中旬をめどに濃厚接触を把握するアプリを導入する考えを示した。「クラスター(感染者集団)対策を一層強化する」のが目的で、個人情報は取得しないと説明した。

全世帯に配布する布マスクには「検品を強化したことで配布が予想より遅れているのは事実だ。一日も早くお届けできるように全力を尽くしたい」と語った。「再利用可能な布マスクは需給バランスを回復することに大きな効果が期待できる」と意義を改めて強調した。

梅雨を控えて災害対策にも言及した。「新型コロナが収束していない中でも災害時は避難所に避難するよう心がけてほしい」と呼びかけた。ホテルや旅館も活用して避難所を確保し、災害発生時にはマスクやパーテーションなど感染防止の物資を迅速に支援できるよう「準備に万全を期す」と訴えた。

■ G7で途上国支援へ

米国が6月の開催を目指す主要7カ国首脳会議(G7サミット)は「諸般の事情が許せば、参加したい」と述べた。新型コロナのワクチンを途上国でも使えるようにする国際的な枠組み作りを提案する意向だ。「特許権プールの創設を提案したい」と語った。「自由かつ開かれた形で世界の感染症対策をリードしていかなければいけない」と強調した。

新型コロナをめぐる米中対立を巡っては同盟国である米国との協力方針を示し、中国には「ふさわしい責任を果たしてほしい」と求めた。

東京五輪・パラリンピックは「来夏に感染症に完全に打ち勝った証として完全な形で東京大会を開催したい」と改めて意欲を見せた。

新型コロナへの政府の対応を巡っては「まだ検証の段階にない」との認識を示した。「全体の政治判断も含めた検証については収束した段階で検証したい」と述べるにとどめた。

政府は25日の基本的対処方針等諮問委員会に5都道県の宣言解除方針を諮り、了承を得た。同日夜に開いた政府対策本部で正式に解除を決定した。

緊急事態宣言は4月7日に東京や大阪など7都府県へ発令し、同月16日に全国に広げた。新規感染者数の減少を受けて5月14日に39県を、21日に大阪など3府県を対象地域から外した。5都道県が解除され約50日ぶりに発令地域が全国からなくなった。