変異ウイルス解析1日6000件 筑波大発の新興、国内最大

Nikkei Online, 2021年3月31日 18:00


iLACはがんゲノム向けを転用し、
新型コロナ向けゲノム解析システムを開発した

筑波大学発スタートアップのiLAC(アイラック、茨城県つくば市)は 4月1日、新型コロナウイルスの全ゲノム(遺伝情報)を解析するサービスを始める。「英国型」や「南アフリカ型」など、感染力が強いとされる変異型を特定する。処理能力は 1日6000検体分と国内最大だ。感染の再拡大を抑えるのにつながる。

変異型ウイルスは種類ごとに効きにくいワクチンがあるとの研究がある。流行状況の把握は感染予防に不可欠だ。現在は行政検査で新型コロナ陽性となった検体のうち、5~10%程度をゲノム解析などに回して調べている。厚生労働省はこの割合を高める方針で、民間にも解析の委託を始めた。

アイラックには島津製作所伊藤忠商事が出資している。新たなサービスは筑波大の佐藤孝明特命教授らが開発した技術を使う。がんのゲノム解析に使うシステムを応用した。解析対象の遺伝子を抽出するプロセスを自動化することなどにより、約12時間で6000検体という大量の処理を可能にした。米遺伝子解析最大手のイルミナ社の装置を使う。解析価格は1検体あたり3万円程度とする。

同様の解析を手掛けるタカラバイオなどは処理能力を明らかにしていないが、遺伝子の抽出は人手に頼っており、解析実績は週に1000検体ほどとみられる。

アイラックのサービスは、自治体などからコロナ検査を受託する地方衛生研究所や病院などに島津製作所や伊藤忠商事が利用を呼びかける。検体の回収は臨床検査大手のビー・エム・エル(BML)が協力する。

新サービスは経済産業省の補助金を活用して開発した。厚労省とも協力する方針で、国立感染症研究所とも情報共有を進める。

ゲノム解析は米国やオーストラリア、欧州などを中心に進んでいる。米疾病対策センター(CDC)は民間の検査会社とも契約し、週6500検体を解析している。オーストラリアはすべての陽性患者のゲノム解析を実施する方針を示している。

解析したゲノム情報を共有する国際プロジェクトもあるが、日本のゲノム情報の提供は遅れている。ゲノム解析が専門の東京大学の井元清哉教授は「感染力が強かったり、ワクチンの有効性が低下する可能性があったりする変異株が存在する。(ゲノム解析により)変異株の感染者を迅速に発見し対策を打つ必要がある」と話す。