東京、家庭内感染6割 自宅療養・デルタ型でリスク拡大

Nikkei Online, 2021年8月8日 2:00

新型コロナウイルスの自宅療養者が急増し、家庭内で感染が広がるリスクがより高まっている。東京都内での感染経路は8月上旬までに「家庭内」が61%に達し、これまでで最高となった。感染が判明しながら療養先が決まらず自宅待機を余儀なくされる人も急増している。宿泊施設の拡充が進んでいない地域もあり、重症化リスクが高い自宅療養者を優先して診療するといった対策が待ったなしだ。

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「家で過ごす場所、食事など全てを分けるのが望ましいです」。7月下旬、夫の陽性が判明した30代女性は保健所からの指導に苦悩した。夫は軽くせきが出る程度で「軽症」と診断され、自宅での療養を促された。

都内マンションの1LDKに2人で住む。「トイレも別なんて無理。自分も感染する覚悟をするしかなかった」と話す女性はその3日後、実際に感染が判明した。「夫はいつ急変するかも分からず、せめてホテルに入れてほしかった」と話す。

都は5日のモニタリング会議で、7月27日~8月2日の1週間の感染経路を分析した結果、判明分のうち「家庭内」が最多の61%だったと明らかにした。年末年始中心の第3波や、今春の第4波はピーク時でも約5割で、6割を超えたことはなかった。

感染力の強いインド型(デルタ型)は家族1人が感染すると「ほとんど全員が感染すると思った方がいい」(政府分科会の専門家)との指摘もある。家庭内で部屋や食器などを分けても防げるか不透明だ。

家庭内感染を防ぐには宿泊施設への「隔離」が有効だ。医師や看護師が常駐するなど自宅療養より専門家の目が行き届きやすい宿泊施設での療養は、重症化しやすいデルタ型への備えにもなる。

宿泊療養なら、重症化を防ぐ効果が期待される「抗体カクテル療法」を導入しやすくなる。同療法は点滴が必要で自宅での実施は綿密な往診が必要などハードルが高い。都内の一部の保健所は「宿泊療養者などに医師による抗体カクテル療法ができるよう準備を進めている」とする。

宿泊療養の拡充に取り組む自治体もある。大阪府だ。第3波や第4波で家庭内が感染源の2割弱を占め、3~5月には自宅で19人が死亡した教訓から、宿泊療養向けに第4波を超える約4千室を確保した。今月中旬までに6千室に増やす。

新たに「療養者情報システム」も立ち上げ、陽性者の病状とホテルの空室情報を一元管理し、当日か翌日には宿泊施設に入れるようにした。「自宅ではなく宿泊療養に誘導していく。看護師も医師もいて健康観察をやりやすい」と吉村洋文知事。府内では6日時点で自宅療養者は5119人、宿泊療養者は2301人となっている。

対照的に東京都は宿泊施設の活用が進んでいない。確保済みの宿泊施設は約6千室あるが、受け入れ可能なのは2940室。6日時点で自宅療養が1万8036人なのに対し、宿泊療養は1815人にとどまる。

都によると、6千室には看護師の待機や機材の保管に使う部屋も含む。消毒の手間もかかり、全てを宿泊療養に使えるわけではない。看護師らの確保も必要で部屋数を直ちに増やすのは難しいという。

厚生労働省によると、4日時点の全国の自宅療養者は4万5269人で6月30日時点(4134人)と比べて11倍になった。陽性なのに入院の要否が決まらず自宅待機などをしている調整中の人は4日時点で同7・6倍の1万7235人、宿泊療養者も同3・9倍の1万3071人に膨らんでいる。

各自治体は自宅などでの療養支援強化を急いでいる。

都内では入院先の調整待ちなどで自宅にいる陽性者向けに酸素飽和度を測定するパルスオキシメーターを配ったり、健康観察を担う看護師や相談窓口の電話回線を増やしたりする。

神奈川県は、重症化リスクを判断する詳細な基準をつくり、入院の要否の判断に加え、自宅などでの療養支援に生かす仕組みを取り入れた。

年齢や基礎疾患、症状などを個別に得点化し、総合点が高いほど健康観察が必要と判断する。

こうした患者の情報を一元化した上で、それぞれの地域の医師会や看護師で構成する「訪問看護ステーション」に提供する。1日1回の電話での健康観察や、症状急変時に優先してオンライン診療したり、入院調整を進めたりしている。

神奈川県の4日時点の宿泊療養者は814人(確保数は1657室)で自宅療養者は7561人。入院先などを調整中の待機者は267人で、東京都(9710人)に比べると大幅に少ない。自宅や宿泊施設で療養する人を支える仕組みが整っているため、治療方針を早めに決められるという。

横須賀共済病院の長堀薫院長は「症状に応じて病院間の機能を分け、連携することが大事。病床を大きく増やすのには限界があるが、自治体を中心に患者をスムーズに振り分ける仕組みを整えれば受け入れ数を増やせる」と指摘している。

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