AI脅威論の先にヒトと共生 新たな雇用、成長率2倍

Source: Nikkei Online, 2021年12月7日 11:00

「大いなる第一歩になる」。10月、バイデン米大統領は週7日、1日24時間の稼働でロサンゼルス港などと合意したと表明した。ライバル港が自動化を進め「不眠不休」で貨物船を迎える中、人力頼みのロス港は夜間の作業停止が続いてきた。

2022年に国際港湾倉庫労働組合と港湾業者の労使協定は満期を迎える。焦点は自動化だ。自動化で労働コストは60%減り、利益は2倍以上に膨らむとの試算もある。ストライキも辞さないロス港の労組の反発は根強いが、人手不足を見据えれば、自動化にもはや背を向けられない。

国連の人口推計(低位推計)では、20年と比較した先進国の生産年齢人口は50年までに14.5%減り、2100年にはほぼ半減する。約3億7000万人分の労働力が消滅する計算だ。世界を揺るがしかねない人口減少問題は希代のイノベーターも突き動かす。


ロボットが不可欠に マスク氏突き動かす

「人類の文明にとって最大のリスクは、急速に低下する出生率だ」。9月、ロスのイベントに登壇した米テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は、人口減少への危機感を訴えた。

電気自動車(EV)やロケットに続き、ヒト型ロボット「テスラ・ボット」に挑む。身長173センチメートル、体重57キログラム。20キログラムの重量物を持ち上げ、危険労働や単純労働から人類を解放する。22年の試作品完成を目指す。

人型ロボットについて説明する米テスラの
マスクCEO =同社の配信映像から、共同

「労働人口の47%が人工知能(AI)やロボットで代替可能な状態にある」。13年にオックスフォード大のマイケル・オズボーン准教授らが発表した論文「雇用の未来」は世界に衝撃を与え、テクノロジーが人から雇用を奪うと懸念された。

ところが、新型コロナウイルスの流行で風向きは変わった。オズボーン氏も「パンデミックで多くの人は自動化が考えていたほど悪くはないことに気づいた」と脅威論の後退を指摘する。

世界経済フォーラムは25年までに工場労働者など8500万人が雇用を失うが、AI技術者など9700万人分の雇用創出を予測する。

技術革新の恩恵、産業革命が証明

技術革新に対する人の恐れは繰り返された歴史だ。産業革命に沸く19世紀初期の英国。失業を危惧した織物工業の労働者は織機を破壊する「ラッダイト運動」に傾いたが、先駆けた工業化で生産性を飛躍的に高めた。

アクセンチュアなどの調査はAIやロボットが多くの先進国で国内総生産(GDP)成長率を35年に約2倍に高めると分析する。摩擦をいかに推進力に変えるか。ヒントは総人口600万人に満たない「小国」にある。

建国以来、初めて2年連続で人口が減ったシンガポール。国際経営開発研究所が調査したデジタル競争力では世界5位だが、危機感は強い。技術の進化に合わせ、人材の再育成に乗り出した。

22年までに300社を目標に、デジタルスキルを学び直す8週間の研修プログラムを始めた。活用企業は生産性を最低10%向上させるという。政府予算は日本の1割に満たないが、公共部門のデジタル化には年3000億円規模を投じる。

人口減時代でどう持続的に成長するか。人とロボットの「適材適所」の共生は有力な解となる。