Source: Nikkei Online, 2022年5月21日 5:00
量子コンピューターの開発をめぐる国内外の状況を、バーチャルキャラクター、日比学くんと名瀬加奈さんが吉川和輝編集委員に聞きました。
日比くん「国産の量子コンピューターはこれまでなかったのですか」
日本でも量子コンピューターの研究は長く行われてきましたが、実際に高速計算ができるマシンができるのは初めてです。国内に複数の開発プロジェクトがあり、理化学研究所と富士通が共同開発している量子コンピューターが国産第1号になる見通しです。
国産以外では東京大学が導入した米IBMの商用量子コンピューター「Quantum System One」が21年から川崎市で動いています。このほか海外にある様々な量子コンピューターがネットワーク経由で利用されています。
名瀬さん「量子コンピューターといっても色々な方式があるそうですね」
IBMの商用機や理研などが開発中のマシンは「量子ゲート方式」と呼ばれるものです。計算の基本単位となる「量子ビット」を超低温で動く超電導回路で作ったタイプです。19年にスーパーコンピューターの能力をしのぐ「量子超越」を達成したと話題になった米グーグルの量子コンピューターもこの方式です。
これとは別に「量子アニーリング方式」という量子コンピューターがあります。量子ゲート方式に先行してカナダのDウェーブ・システムズが11年に製品化しましたが、計算できるのが「組み合わせ最適化問題」という分野に限定されます。
IBMやグーグルなどが進める量子ゲート方式は、様々な問題を桁違いの速さで解けることが期待されています。そのためには量子ビットの数を大幅に増やしたり計算エラーを減らしたりする必要があり、両社は長期的な計画を立てて開発を進めています。
日比くん「量子コンピューターの開発でも米国の大手IT企業が主役のようですね」
現状はそうですが、今後もそれが続くとは限りません。同じ量子ゲート方式でもIBMやグーグルとは異なる技術が台頭しているためです。電気を帯びた原子(イオン)で情報を操作する「イオントラップ」という技術です。量子コンピューターの技術トレンドの主役がイオントラップに移りつつあると指摘する専門家もいます。
オーストリアのAQT社はこの技術を使って、常温で動く小型の量子コンピューターを開発したと21年に発表し、話題になりました。米スタートアップのイオンQがニューヨーク証券取引所に上場したり、イオントラップ技術を持つ米ハネウェル社が量子コンピューターの新会社を設立したりするなど、この技術をめぐる動きが活発です。
名瀬さん「他にも有望な技術があるのでしょうか」
注目されているのは量子ビットを、今のコンピューターでもおなじみのシリコン半導体で作るというアプローチです。既にある微細加工技術が応用しやすく、装置の規模を拡大しやすいとみられています。米インテルや理化学研究所などが研究を進めています。また東京大学の古沢明教授らが研究を進めている光を使った独自方式の量子コンピューターも有力な技術です。
量子コンピューターは関連技術の進展スピードが早く、有力とされる技術も目まぐるしく変化しています。量子コンピューターの本格利用はまだ先ですが、医薬品開発や高性能の人工知能(AI)実現など様々な応用が見込まれ、社会の姿を大きく変えるでしょう。国産第1号機はその重要なステップです。
IBMやグーグルなどが手がける量子ゲート方式のコンピューターのもとになる超電導量子ビットを世界で最初に開発したのは1999年、当時NECの研究者だった中村泰信氏(現理化学研究所量子コンピュータ研究センター長)らだった。
また量子ゲート方式に先行してカナダ企業が実用化した量子アニーリング方式の原理を提唱したのは西森秀稔・東京工業大学教授で98年のことだった。国を挙げて量子コンピューターを開発しようとしている日本。かつて先頭を走っていた有力プレーヤーの底力が試される。
(編集委員 吉川和輝)