Source: Nikkei Online, 2023年3月14日 17:17更新
次世代の高速計算機、量子コンピューターを開発する英オックスフォード大発の新興企業が日本市場に参入する。東京都内のデータセンターに設置し、2023年後半にクラウドを介して企業が利用できるサービスの提供を始める。日本企業にとっては量子コンピューターの利用機会の拡大につながり、化学や製薬、金融分野での活用に向けた取り組みが新たな段階に入る。
オックスフォード大発の英オックスフォード・クァンタム・サーキッツ(OQC)は14日、自社開発の量子コンピューターを東京都内に設置しクラウドで利用できるようにすると表明した。日本は英国以外で初となる海外拠点で、アジアを中心に海外市場を開拓する足場と位置づける。
OQCは極低温に冷やした超電導の回路を利用する量子コンピューターを開発している。日本には計算の基本単位で性能の目安となる「量子ビット」の数が32量子ビットの実機を設置する。
21年に米IBMが川崎市に設置した同様の量子コンピューターは27量子ビットで、性能はOQCが上回る。製薬分野での新たな化合物の探索など、より実践的な計算に利用できるようになる。
OQCは将来の高性能化が期待できる3次元構造の独自設計技術に強みをもつ。日本での導入にあたっては利用企業が手軽に接続できる仕組みとし、導入に向けた支援サービスなども提供する。
同社は量子コンピューターが35年までに7000億ドル、日本円で100兆円近い経済価値を生むと予測する。日本は先端素材の開発に強い企業が集積し、脱炭素の鍵を握る研究などで量子コンピューター活用のニーズが大きい。イラーナ・ウィスビー最高経営責任者(CEO)は「日本には多くのビジネス機会がある」と述べた。
17年創業の同社には日本の東京大学エッジキャピタルパートナーズなどが投資する。米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)のクラウドとも連携し、顧客開拓に力を入れてきた。データセンター大手の米エクイニクスと手を組み、日本をはじめ海外展開を加速する。
量子コンピューターは従来のコンピューターとは計算の原理などが異なり、利用の際には新たなノウハウが必要となる。これまでは日本で稼働する実機が少なく利用機会は一部の大企業などに限られていたが、OQCの参入で利用の裾野が広がる可能性がある。
国内ではIBM製の量子コンピューターを東京大学を中心にトヨタ自動車やソニーグループなどで構成する協議会の加盟企業・大学が利用している。3月末には理化学研究所が国産初となる量子コンピューターを整備し順次、企業や大学に公開する計画だ。相次ぐ実機の稼働で産業応用の動きも活発化する見込みだ。
グーグルが19年にスパコンで1万年かかる問題を約3分で解き「量子超越」と呼ぶ成果をあげたことをきっかけに、世界では量子コンピューターの開発競争が激しさを増す。大手IT企業に加えて新興企業の参入が相次ぎ、米イオンQや米リゲッティ・コンピューティングなど株式上場を果たす事例も出てきた。
技術的な課題はなお多いが、多様な企業が開発に参加することで計算時に生じるエラーなどの課題克服も進みそうだ。