Source: Nikkei Online, 2024年6月30日 2:00
がん免疫総合研究センターは2020年4月、日本初のがん免疫研究に特化した拠点として発足した。京大医学部の敷地内に専用棟が新設される。建物はこの春に完成し実験装置の搬入が始まった。11月の開所に向けようやくここまでたどり着けた。
ノーベル賞受賞後、国からの「ご褒美」として三十数億円の事業費がついた。しかし近年の建設費の高騰もあってこれではまったく足りない。資金集めには苦労した。
米ブリストルマイヤーズスクイブ(BMS)のトップに呼ばれて講演に行った際、寄付をお願いした。後に、日本支社を通じて5000万ドルが入ってきた。これで何とか思い描いていた規模のセンターを完成させることができた。
安藤忠雄さんのデザインのおかげで、国立大学にはなかなかない、国際的にも誇れる研究センターになったと思う。正式名称は「がん免疫総合研究センターブリストルマイヤーズスクイブ棟」だ。
基礎研究から生まれた成果を臨床応用にまでうまくつなげる。センターの運営方針は明確である。
基礎3部門、臨床3部門からなり、細胞レベルの研究段階から京大病院の臨床医らにも参加してもらう。国立がん研究センターとも連携し共同研究や人材交流をしていく。
何よりも優秀な若手研究者たちに活躍の場を与える。この1カ月、私の半生を読まれて気づかれたと思うが「PD-1」の発見にしろ「クラススイッチ」の解明にしろ、大学院生や博士なりたての若い体力、知力がなければ、2つの成果は達成し得なかった。
生命科学の分野では計測機器や実験装置がどんどん進化する。研究にますますお金がかかるようになった。若手にはなるべく資金集めで四苦八苦せず、研究に打ち込める環境をととのえる。
PD-1抗体薬「オプジーボ」の登場で、現代医学では完治できなかったがん患者の多くの命を救うことができるようになった。一方で残念ながら半数以上の患者には効果がないこともわかった。人間の体はやはり不思議だ。効く人と効かない人とがいる。
がんという病は、自らの細胞がほんの少しだけ変化して無限に増殖するようになり、体をむしばんでいく。「自己」から生まれた「非自己」は果たしてどこまで私たちの敵なのか。人類ががんを完全に克服する日が来るかどうかの「予言」は難しい。
がん研究の主戦場はがん免疫へと移った。米国が圧倒的にリードする。日本は相変わらずがんゲノムなどに注力し方向転換できていない。これでは若い人材も育たない。
がん免疫によって免疫学も大きく変化した。いま最も興味あるテーマが「ネオアンチゲン」だ。細胞の遺伝子変異によって新たにできるがん抗原を指すが、変異が繰り返されることで必ず発生するというものでもない。個人によってばらつきも大きい。
ネオアンチゲンとは一体何ものなのか。がん免疫の更なる進化にはこの正体を突き止めねばならない。
解明に向けてある仮説をたてた。それを近いうちに証明するつもりだ。仮説こそが科学や医学研究の神髄である。手の内をこの場で明かすことはご容赦願いたい。
=おわり