Source: Nikkei Online, 2024年9月17日 12:58更新
【シリコンバレー=渡辺直樹】米マイクロソフトは16日、業務ソフト「マイクロソフト365」の人工知能(AI)機能を強化すると発表した。「エクセル」や「パワーポイント」では「職人技」とされてきた高度な作業をAIが代替する。個人スキルに依存していたデータ処理や資料作成の複雑な操作を誰でもできるようにする。
「4億人以上の利用者の業務フローと成果物を大きく変革する」――。マイクロソフトのサティア・ナデラ最高経営責任者(CEO)は16日にオンラインで開いた説明会で、新たな生成AI機能に込めた狙いをこう表現した。
同社は提携する米オープンAIの対話型AI「Chat(チャット)GPT」の技術を「365」の各ソフトに搭載している。AIに指示して各種の操作を支援する機能を「コパイロット(副操縦士)」と名付け、改良を進めてきた。今回の発表は企業向けの機能進化の第2弾という位置づけだ。
表計算ソフトの「エクセル」はAIで入力やデータ整理を自動化する機能の一般提供を始めた。これまでプログラミング言語「Python(パイソン)」の知識が必要だった高度なデータ分析などの操作についても、AIへの指示によって実行できるようにした。
プレゼンテーション作成の「パワーポイント」については、つくりたい内容を入力するだけで企業のブランドイメージに沿った資料を自動作成できる。会議録やチャットのやりとりをAIが整理し、各種プロジェクトなどの共同作業を進めやすくする「コパイロット・ページズ」の提供も始める。
ナデラ氏は説明会の中で「AIが高性能になると、モデル自体はコモディティー化する」と述べた。AIの性能を向上させるだけでなく、ソフトへの実装を進め、利用者の利便性を高めていく方向に競争のステージが移行しつつあると強調した。
実際、コパイロットの顧客は四半期ごとに利用者が60%増加している。マイクロソフトによると、顧客の中には広告などのコンテンツ作成の期間を3分の1に減らしたケースもあるという。
「365」の利用者は世界で4億人にのぼる。マイクロソフトは月30ドル(約4200円)の企業向けのコパイロット機能を売り物に、ソフトのサブスクリプション(定額課金)事業の拡大を狙う。
オープンAIとの二人三脚によって生成AI機能で先行してきたマイクロソフトだが、独走状態が続くという保証はない。米グーグルはメールソフトや文書・表計算ソフトを含む「ワークスペース」に独自生成AI「Gemini(ジェミニ)」の搭載を進める。米アップルもスマートフォン「iPhone」で生成AI機能を使えるようにするなど、サービスの開発競争は激しさを増している。
開発企業の間ではデータセンターや半導体への投資負担が増している。マイクロソフトの2024年4〜6月期の設備投資額は前年同期比8割増となった。提携するオープンAIには計130億ドルを投資したと報じられている。米トゥーリングキャピタルのサミール・クマー氏は「AI企業にとって投資リターンと収益化は最重要の課題になっている」と指摘する。
22年11月に登場したチャットGPTは人間のような巧みな受け答えで世界に衝撃を与えた。ただ、企業のIT(情報技術)担当者の間では「対話AIを物珍しさで入れるという段階は終わりつつある」との声も上がる。
米ルシッドワークスの調査によると、24年にAI支出を増額すると回答した企業は63%と23年の93%から減少した。サービスの利用者は生成AIの実用性や導入の効果を慎重に見極めようとしている。
米連邦取引委員会(FTC)や欧州の規制当局はマイクロソフトとAI企業の取引や、ソフトの抱き合わせ販売について調査を進めている。独占につながる可能性がある取り組みには監視の目も強まっている。