ノーベル物理学賞に「AIの父」ヒントン氏ら2人


Source: Nikkei Online, 2024年10月8日 21:35更新

ノーベル物理学賞の発表風景(ノーベル財団の配信動画から)

スウェーデン王立科学アカデミーは8日、2024年のノーベル物理学賞を、米プリンストン大学のジョン・ホップフィールド氏カナダのトロント大学のジェフリー・ヒントン氏に授与すると発表した。人工知能(AI)の基盤技術である機械学習に関する発見と発明が評価された。両氏の成果をもとに高精度な文章や動画像を生み出す生成AIが開発され、社会に大きなインパクトを与えている。

授賞理由は「人工ニューラルネットワークで機械学習を可能にした基礎的発見と発明」。選考委員会は記者会見で「2人が貢献したAIの技術革新と発展は、他の物理学も大幅に進化させている」と評価した。

機械学習は画像や音声、文章などのデータの分類方法をコンピューターに学ばせ、分類精度を高められる。画像検索や音声認識で実用化しているほか、自動運転車などに応用が広がっている。

ホップフィールド氏が脳の神経細胞の回路を模倣したシステムを開発し、ヒントン氏がそのシステムを発展させた技術を1985年に発表した。 与えられたデータから特徴を抽出して学習でき、現在の機械学習の基礎となっている。 両氏の成果は80年代のAIブームの火付け役となったが、90年代ごろには冬の時代を見た。

再びAIブームを引き起こしたのもヒントン氏だ。ヒントン氏が2006年に機械学習の一種である深層学習のアルゴリズム(計算手法)に関する論文を発表した。12年には深層学習を駆使して、米国で開かれた画像認識ソフトウエアの世界的なコンテストで優勝した。写真に写った物体の認識の正確性を競い、それまでの記録を大きく塗り替えた。


ヒントン氏らの成果は生成AIの開発にもつながった。自然な文章や画像などを瞬時に生成するAIを 米オープンAIや 米グーグルなどが開発し、スマートフォンやパソコンで手軽に利用できるようになった。仕事の生産性を大幅に高めるなど、人々の生活や産業に大きな変革をもたらそうとしている。

AIは最先端の科学でも欠かせなくなった。生命活動に欠かせないたんぱく質の構造を正確に予測するシステム、素粒子の研究、新素材の探索にも利用が広がる。東京大学の松尾豊教授は「社会に対してのインパクトが大きくなってきたからこそ、受賞の対象になった」とみる。

AIは使い方によっては人類の脅威にもなり得る。選考委員会の記者会見に電話で参加したヒントン氏は、AIの技術進展は「大きな影響力を持つことになる。その影響は産業革命に匹敵するだろう」と述べた。一方で「技術が制御不能になり得る脅威のように、将来起こりえる多くの悪い結果にも注意を払わなくてはいけない」と警鐘を鳴らした。

授賞式は12月10日にストックホルムで開く。賞金は1100万スウェーデンクローナ(約1億6000万円)で両氏で分け合う。

Geoffrey E. Hinton 英ケンブリッジ大学で心理学を学び、1978年に英エディンバラ大学で博士号を取得した。 約半世紀にわたって世界の AI研究をけん引し、教え子の多くが最先端の生成AIの開発を担っている。 2013年から23年まで米グーグルに所属した。76歳

John J. Hopfield 米スワースモア大学を54年に卒業し、58年に米コーネル大学で博士号を取得した。初期は半導体研究などでも成果を上げた。「ホップフィールドネットワーク」を発表し、物理学と生物学の理論を組み合わせて現代の AIの礎を築いた。91歳