DX担い手、米の1割 
AIに必須「STEM」人材へ投資急務

Source: Nikkei Online, 2021年9月26日 2:00

デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進に不可欠な先端IT(情報技術)人材の育成が遅れている。人工知能(AI)やあらゆるモノがネットにつながるIoTなどを扱える人材は2030年に27万人不足する見通しだ。だが「STEM」と呼ばれる数学や科学分野の卒業者数は米国の10分の1にとどまり、DXの担い手を十分に育成できていない。人への投資を積極化する必要がある。


「AIによる商品の需要予測システムを開発したいが、取り組む地力がない」。ある食品メーカーのDX担当者はこぼす。社内のIT部門の人員を1.6倍に増やしたものの、先端技術に詳しい人材が育っていないという。

日本のIT人材は足元では少なくない。総務省の20年の労働力調査によれば、情報通信業の技術者は122万人。国際労働機関(ILO)などのデータと比べると米国(409万人)やインド(232万人)、中国(227万人)に次いで世界4位だ。問題は人材の「質」だ。

経済産業省によると、18年のIT人材の9割がウェブやアプリを開発する「従来型IT人材」だ。AIやIoTなどを専門とする「先端IT人材」は1割しかいない。先端IT人材は今後逼迫し、不足人数は30年に27万人と18年の13倍に増える見通し。従来型IT人材のリスキリング(再教育)では追いつかない。

「25年までにビジネスで使うアプリの70%以上が複雑なプログラミングが不要なノーコード・ローコード開発になる」(米ガートナー)。技術が汎用化し、ウェブやアプリは誰でも開発できるようになる。代わりにAIやIoTなどで必要な知識を持ち、「課題を解決できる人材が必要だ」と東洋大学の坂村健教授は指摘する。

求められるのは、数学や科学など「STEM」分野の教育を受けた人材だ。米国ではスタンフォード大学などでSTEM分野を学んだ卒業生が米IT大手で働いたり、起業したりする。

人材会社ヒューマンリソシアの協力を得て経済協力開発機構(OECD)のデータを調べたところ、日本の「自然科学・数学・統計学」分野の卒業生数は18年に約3万人と米国の10分の1だ。卒業生の14~18年の年平均増減率も日本は0.4%減とフランス(10%増)やイタリア(7%増)などに見劣りする。

日本でも人材育成を強化する動きが出てきた。17年に国内初のデータサイエンス学部を設立した滋賀大学は、ダイハツ工業などの企業と学生が一体となり、課題解決に取り組む。東洋大の情報連携学部ではコンピューターサイエンスとデザイン、マーケティングなどの融合を目指した教育を展開する。

滋賀大の河本薫教授は「単にSTEM分野を増やすのではなく、社会の要請に合わせ教育内容を刷新すべきだ」と指摘する。米国では産業界が求める人材像を大学にフィードバックする助言機関がある。産学の連携余地は大きい。

企業が人材を育成・獲得する動きも広がる。Zホールディングスは21年度から5年間でAIエンジニアを5000人規模増員する。ダイキン工業は大阪大学と社内大学を設け、23年度までにAIやIoT人材を1500人育ててサービスや営業の現場に配置する。

スイスのビジネススクールIMDの「世界デジタル競争力ランキング」によると、13年に20位だった日本の総合順位は20年に27位に落ちた。とりわけ人材に関する評価が低い。DXを担う人への投資を怠れば、日本の競争力がさらに劣後する恐れがある。

(DXエディター 杜師康佑、グラフィックス 佐藤綾香)