地銀、反転攻勢のシステム変革
 盟主が起こすうねり

地銀勘定系システムの未来(上)

Source: Nikkei Online, 2021年10月18日 5:00


横浜銀行を中心に5つの地方銀行が今後、
システムの共同利用を進める(写真撮影:村田和聡)

地方銀行は2000年ごろから、銀行業務の基幹となる勘定系などのシステム共同化に突き進んだ。大半の地銀が共同化に参画するも、運用コストは高止まりしている。地銀界の盟主である横浜銀行が踏み出した一歩は業界に大きなうねりをもたらす。

横浜銀行、「究極の共同化」に一歩前進

「勘定系システムに戦略的な位置付けを持たせてはいけない。勘定系を記帳機能に特化させていけば、極端な話、(全国地方銀行協会に加盟する)地銀62行で勘定系は1つという形も将来的に十分あり得るのではないか」。地銀でトップの預金量を誇る横浜銀行の大矢恭好頭取は地銀システムの未来をこう見据える。

勘定系システムの機能を絞り込み、今より多くの地銀で共同利用することで、各行が負担する勘定系の運営コストを一段と減らす――。大胆な将来像に向け、横浜銀行が一歩踏み出した。

それが横浜銀行を中心に、北陸銀行や北海道銀行、七十七銀行、東日本銀行の全5行が参画する共同利用システム「MEJAR(メジャー)」のオープン化だ。5行とNTTデータは2024年1月、同社製勘定系パッケージ「BeSTA(ベスタ)」の動作プラットフォームを富士通のメインフレームからオープンソースソフトウエアのLinux(リナックス)基盤に移行する予定だ。

「コスト削減で決算を組み立てる」

横浜銀行の一手は、地銀を取り巻く苦境の裏返しでもある。低金利の長期化や地方経済の衰退を背景に、顧客から集めた預金を貸し出しや市場運用に回す従来型のビジネスモデルは今や限界にきている。

「ここ2~3年、地銀はコスト削減で決算を組み立てる傾向が顕著だ」。こう話すのは金融庁の今泉宣親監督局銀行第二課地域金融企画室管理官である。「決算を組み立てる」とは、収益源が先細り、成長ではなくコスト削減で利益を捻出しているという意味だ。

コスト削減の対象として、地銀平均で年50億円弱のコストがかかる勘定系を中心にしたシステムに焦点が当たっている。特に地銀の大半が参画する「システム共同化」に対するコスト削減圧力が増している。

その方向性を決定付けたのが、金融庁が20年から公表を始めた「金融機関のITガバナンス等に関する調査結果レポート」だ。IT(情報技術)コストの効率性を測る指標として「(年間の)システム経費/預金量」を使い、地銀と信用金庫を比較したところ、地銀は0.17%、信金が0.11%で、地銀が信金に劣ることをデータで示した。


システム共同化の現状と今後の方向性
(注:預金量やシステム経費は2020年度、
出所:金融庁の資料などを基に日経コンピュータ作成)

例えば共同化の利用が長期にわたり、システムの規模が膨れ上がったり、中身が複雑になったりした結果、他システムへの切り替えが難しくなる「ベンダーロックイン」の状況に陥っている恐れがある。これらはシステムコストの増加として跳ね返ってくる。今泉管理官は「システムの合理化が不十分なのではないか」と問う。

こうした状況で、地銀トップの横浜銀行が一歩踏み出した意義は大きい。他の地銀やITベンダーの改革の動きを加速させる可能性が高いからだ。

横浜銀行はMEJARのオープン化に当たって、業務要件や業務アプリケーションに原則手を加えない「リホスト」を採用した。業務要件と業務アプリの両方を新たにつくり替える「リビルド」も選択肢に挙がったが、リスクとコストの両面で「リビルドまでやる必要があるのかという議論になり、リホストに自然と落ち着いた」(横浜銀行の小貫利彦執行役員ICT推進部長)。

数百人でオープン基盤を開発

MEJARのオープン化に向けては、NTTデータが主導する形で18年から、高い信頼性が求められるミッションクリティカルなシステムをオープン基盤で動かすための研究開発を始めていた。数百人の技術者を動員し、メインフレーム本体やメインフレームと一体化したミドルウエア側で担保していた可用性や信頼性を、どうオープン基盤上で実装するかについて、技術開発を重ねてきた。

1つの形になったものが、NTTデータの独自フレームワークである。Linuxやデータベース管理システム(DBMS)の「PostgreSQL(ポストグレSQL)」などと組み合わせ、金融機関のオンラインやバッチ処理を制御したり、障害からの復旧を支援したりする機能を備える。現行システムのソースコードやジョブ、データをオープン基盤に変換・移行するためのマイグレーションツール群もそろえている。


MEJARの新旧システムの比較
(出所:取材やNTTデータの資料を基に日経コンピュータ作成)

既に技術検証を終え、「オープン環境でもメインフレームと同等レベルの信頼性や性能を確保できる」(NTTデータの稲村佳津子執行役員)段階まで来ている。同社は24年の製品化を目指している。

横浜銀行などはMEJARのオープン化に関して、21年3月までに基本検討を終え、現在は設計・製造を進めている。22年中に完了させる予定だ。

23年から試験フェーズに入り、24年1月の稼働を目指す。オープン基盤への移行により、勘定系システムのランニングコストは3割減る見込みだ。NTTデータとの契約期間は7年で、「この期間でみると、初期費用を加味しても、従来と比べてコストは落ちる」(横浜銀行の小貫ICT推進部長)。

NTTデータの他陣営に展開も

現在取り組むオープン化は、横浜銀行にとって、あくまでシステムの抜本改革のステップ1にすぎない。ステップ2としてパブリッククラウドへの移行、ステップ3としてMEJAR以外にNTTデータが手掛ける共同化陣営との運用共同化も検討していく。いずれも30年度ごろがターゲットだ。

横浜銀行は勘定系の周辺に200近くのシステムを有しており、これらもクラウドに順次移す。具体的には、23年度ごろに、顧客情報管理(CRM)システムなどの刷新・クラウド移行を計画する。小貫ICT推進部長は「大きな方向感は全システムのクラウド移行だ」と強調する。

システム抜本改革の総仕上げがステップ3と位置付ける運用共同化だ。NTTデータはMEJARのほかに、京都銀行や西日本シティ銀行など13行が参加する「地銀共同センター」や第二地銀中心に10行が参加する「STELLA CUBE(ステラキューブ)」など主に4種類の共同化システムを展開する。

運用共同化とは、地銀共同センターなどを共通のクラウドに移行し、NTTデータの独自フレームワークを使ってインフラ部分までの運用管理を共同化するイメージだ。


NTTデータが手掛けるシステム共同化の今後の展開
(出所:横浜銀行の資料を基に日経コンピュータ作成)

アプリケーションはそれぞれの陣営で基本的に手掛けつつ、基盤から運用までのレイヤーを共同化する。この「究極の共同化」であれば、「(運用コストを)安くできることは間違いない」(横浜銀行の大矢頭取)。さらに「勘定系システムを預金と貸金の記帳だけに特化できれば、徹底的にトランザクション(手続きや処理の単位)当たりの費用を安くできる」(同)。

どの地銀も勘定系システムに根強く残るCOBOL(コボル)プログラムの保守・運用を手掛ける技術者の確保・育成にも頭を悩ませているが、「運用共同化で技術者を互いにシェアできる」(横浜銀行の小貫ICT推進部長)のも利点だ。

=つづく