Nikkei Online, 2020年12月4日 5:34更新
NTTドコモが本体ブランドの料金引き下げを表明したことで、サブブランドの値下げを発表していたKDDI、ソフトバンクに対する追加値下げの圧力が強まる。各社が収益源とする割高なデータ大容量プランでも値下げ必至だ。新たな値下げ競争の火蓋が切られる。
「売上高が3番手の現状を変える。他社に勝つための値下げだ」。3日の記者会見でドコモの井伊基之社長はこう強調した。
データ利用量20ギガ(ギガは10億)バイトで2980円の新プランは業界で最安値水準となる。格安スマホでも20ギガのデータ容量では3千~4千円台のプランが多い。
新プランは利用開始の際、新たな手数料負担はない。ドコモの利用者だけでなく他社からの乗り換えなどの新規契約者も無料で移行できるようにした。
ドコモが本体ブランドで最安値水準の料金を打ち出したことで、KDDIとソフトバンクは値下げ対応を迫られる。
2社はそれぞれサブブランド「UQモバイル」「ワイモバイル」で20ギガバイトで4000円前後の新プランを発表していた。
両社はサブブランドのテコ入れで政府の値下げ要請に応えたつもりだったが、武田良太総務相は11月中旬以降、主力ブランドの値下げを強く求めるようになった。KDDI、ソフトバンクとも主力ブランドの「au」「ソフトバンク」の値下げには手つかずのままだ。
さらにドコモは現行の大容量プランを値下げする方針も明らかにした。12月中に詳細を発表する。通信量の少ない顧客向けに、格安スマホ企業と連携したプランも検討するという。すべてのデータ容量帯で値下げをする見込みだ。KDDIとソフトバンクは追随せざるを得ないとみられる。
菅義偉首相は、官房長官だった2018年8月から携帯各社に値下げを求めてきた。携帯電話の料金は自由化されているにもかかわらず、携帯大手の間で料金競争は乏しかった。政治主導の値下げが今回も繰り返された格好だが、過去の値下げの実感は消費者に乏しい。
携帯各社は18~19年に値下げしたが、動きが一巡した19年9月時点の料金を調べると、auやソフトバンクでは、端末代を含めた携帯料金の負担が従来より増したプランも多かった。ドコモは19年6月に値下げしたが、競合2ブランドの水準にとどまった。
問題は料金だけではない。総務省が無料にする方針を打ち出した乗り換え手数料を含め、これまで携帯大手は様々な手数料を徴収してきた。こうした施策が消費者の不満の種になってきた。
携帯3社は昨年まで割高な通信契約とセットにし、端末代を大幅に値引く手法で「iPhone」などの高価格帯の端末を売ってきた。携帯はキャッシュカウ(金のなる木)となり「各社が潤って競争が鈍くなる構造となった」(MM総研)。これが携帯料金の高止まりにつながった。
ドコモは大容量の値下げの方針を表明したものの、具体的な価格を明らかにしていない。今後、値下げの方策を巡って競合の2社と大胆な値下げを期待する政治とのせめぎ合いがさらに続く可能性が高い。
わかりにくい携帯料金の見直しが進むかどうかも焦点だ。ドコモの井伊社長は「既存のサービスはよりシンプルな料金プランに見直す」と話す。
一方、急な値下げで携帯各社は次世代通信規格「5G」の投資余力をそがれる可能性もある。ある大手幹部は「今はまさに5Gインフラを構築する時期。値下げ要請のタイミングが悪すぎる」と嘆く。消費者還元と成長投資のバランスをどう取るのか。難しいかじ取りを迫られている。