Nikkei Online, 2021年4月17日 2:00
NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクのオンライン専用プランがスタートして1カ月になろうとしている。この時点でいろいろと課題も見えてきた。
筆者は3月17日にソフトバンクの「LINEMO(ラインモ)」、23日にKDDIの「povo(ポヴォ)」、26日にNTTドコモの「ahamo(アハモ)」を契約した。
このコラムでは以前、LINEMOの契約について「慣れていれば簡単」と書いた。しかし、オンライン契約が初めての人は、相当難しく感じるようだ。
筆者がpovoを契約した際には、契約自体は問題なくできたものの、iPhoneに設定した「eSIM」を誤って削除してしまった。オンラインで再発行を依頼しようとチャットで問い合わせたら「お客様センターに電話をしてください」と回答された。
そこで電話して再発行手続きを行ったがうまくいかず、結局、物理的なSIMカードを再発行してもらうことになった。つまり、SIMカードが届くまでの数日間は不通状態になってしまった。サブ回線として契約したので特に支障はなかったが、これがメイン回線だったら仕事が一切止まってしまうところだった。
やはりeSIMは難しいと感じた。一般の人はもちろん、慣れている人でもちょっとしたミスで面倒なことになりやすい。あるキャリアの関係者は「正直に言ってeSIMの導入は時期尚早に感じる。ユーザーのリテラシーがまったく追いついていない」と指摘する。
しかし、総務省はキャリア間の乗り換えを促進する秘策としてeSIMの普及を推進しようとしている。総務省の「スイッチング円滑化タスクフォース」では、「キャリアは、現在eSIMを提供していないスマートフォンについて、2021年夏頃をめどとして、できるだけ早期に導入することが適当」との報告書案をまとめている。
長期的に見れば、eSIMは今後、普及が進むだろう。高速通信規格「5G」時代に向けて、様々なIoT機器に内蔵されていくはずだ。
筆者も、実際にはeSIMをとても便利に使っている。例えば、iPadはeSIMで通信している。また、Apple Watchで使っているeSIMはiPhoneからオンラインで契約でき、とても手軽だと感じた。
これらはいずれもデータ通信専用でeSIMを使っている例だ。一方、仕事や家族との連絡に使う音声通話の携帯電話番号でキャリアを乗り換える際にeSIMを使おうとすると、よほど慣れていない限り、手続きや設定でトラブルになる可能性がある。
LINEMOはサービスの提供を開始した翌日、eSIMに対して「上級者用」という文言を付け加えた。総務省は「eSIMを導入すれば、乗り換えが促進され、料金競争が進む」といった議論を展開しているが、もう少し慎重になったほうがいいのではないだろうか。
オンライン専用プランの開始以降、ネットでは「ahamoを契約したがうまく通信できず、ドコモショップに駆け込んだが全く対応してくれなくて困った」という書き込みが注目を浴びていた。そのようなトラブルは、ahamoの発表当初から懸念されており、予想通りの展開といえるだろう。
KDDIとソフトバンクはオンライン専用プランのほかに、それぞれ「UQモバイル」と「ワイモバイル」というサブブランドを持ち、そちらはリアル店舗でしっかりサポートしている。「ネットは苦手だけど、通信料金は安くしたい」というニーズに応えているのだ。
「料金が高いから他社に乗り換える」というケースを防ぐために、UQモバイルやワイモバイルが機能している面もある。UQモバイルやワイモバイルで通信容量が足りなくなったユーザーには、使い放題プランがあるauやソフトバンクを勧めることもできる。
NTTドコモはこうしたサブブランドを持たず、それが弱点になる可能性があった。そこで同社は、ドコモショップの店頭でahamoの有償サポートサービスを提供する予定だ。
あくまで有償サポートの提供であり、ドコモショップでahamoの申し込みができるわけではない。ショップ店員は、ユーザーが自分のスマホで申し込むのを手伝うという体裁になるようだ。
これまで「ahamoがドコモショップで契約できないにもかかわらず、店頭でahamoをアピールするのはおかしいのではないか」「ahamoをまき餌にして、NTTドコモの料金プランを契約させるつもりではないか」との批判が上がっていた。そこで、店頭での有償サポートという形にしたのだろう。
ahamoに興味あるNTTドコモのユーザーは、店頭でショップ店員に相談しながら「有償サポートを受けてahamoを契約する」か「NTTドコモの料金プランを使い続けるか」を選択することになる。ドコモショップとしては、おそらくNTTドコモの料金プランを契約し続けてくれたほうが有利なはずなので、店員はNTTドコモの料金プランを勧めてくるだろう。
政府の意向によって通信料金の値下げは強制的に実現したが、オンライン専用プランを急いで導入したことで、様々な課題や問題が浮き彫りになった。
リテラシーのあるユーザーはネットを使いこなして自分に合った料金プランに変更できる一方、ネットが不得意なユーザーはいつまでも自分に合わない割高な料金プランを使い続けなければならない。この根本的な構造は結局、変わっていない。
国民に値下げを実感させるには、キャリアに値下げを迫るだけでなく、国民のネットリテラシーを上げる必要があるのかもしれない。