Nikkei Online, 2023年1月29日 2:00
人工衛星で地球上のどこでもインターネットに接続できる体制整備が進む。スウェーデンのエリクソンは、衛星とスマートフォンの間で直接通信する技術を開発し、2~3年後の商用化を目指す。楽天モバイルも同様の開発を進める。衛星を活用した通信インフラの整備が進むと、68%にとどまる世界のネット普及率が100%近くになる道筋が見えてくる。
携帯電話の通信網はこれまで各地に張り巡らせた光ファイバーでつないだ地上局のアンテナが基本になってきた。新技術の普及には通信用衛星の数が増えることが条件だ。米起業家のイーロン・マスク氏率いる米スペースXなどは衛星打ち上げを加速しており、小型衛星の数は2025年に22年比で2倍、35年には14倍に急増する見通し。人工衛星が地上インフラを補完して地球全体をネットワーク化していくことになる。
エリクソンは、米半導体大手のクアルコムや仏電子機器大手タレスと共同で、スマホで衛星と直接通信して動画などを見られる技術開発を進める。強い電波を出して受信感度の高い専用の通信半導体やアンテナを開発し、スマホや衛星に搭載する。23年半ば以降には衛星を使って通信試験を始め、25〜26年には市販のスマホなどの端末に入れて商用化することを目指す。
日本では楽天モバイルが米スタートアップのASTスペースモバイルと提携し、スマホを使った衛星との直接通信を目指す。22年11月10日付で実験試験局免許の予備免許を取得。今後、実験試験局免許の付与を受け次第、日本国内における低軌道衛星を活用した通信試験や事前検証を実施する。米AT&Tや英ボーダフォンも同様の技術開発を進めている。
衛星を使ったネット接続はすでに、スペースXが衛星通信サービス「スターリンク」を40カ国以上で提供し、日本ではKDDIが提携して提供する。同サービスをスマホなどで使うには、30〜50センチメートル程度のアンテナを近隣に設置したり、既存の大型携帯基地局と接続したりする必要がある。今後はスマホと衛星を直接つなげることで専用設備の設置が不要となり、利便性がさらに高まる。
衛星と直接通信する機能は、災害時などを含めた緊急対策として普及する兆しもある。スターリンクはロシアからの攻撃を受けたウクライナで使われて注目を集めたが、地上の通信網が脅かされる緊急時にも、代替インフラとしてさらに使いやすくなる。
米アップルは、「iPhone14」で衛星とメッセージなどの通信ができる機能を搭載した。まず地上の携帯回線がつながらない場合でも、事故などの際に緊急通報ができる仕組みを取り入れた。スペースXと米通信大手のTモバイルUSも23年末までにスマホのメッセージを送れるサービスを開始する。
通信用小型衛星の打ち上げは今後、加速度的に増える見通しだ。PwCコンサルティングによると、小型衛星の累計打ち上げ数は22年の約5000基から25年に1万基を超え、35年に約7万基になる見込み。スペースXに加え米アマゾン・ドット・コムなどの大手テック企業はこぞって通信インフラとして投資に注力している。
インターネット・ワールド・スタッツによると、世界のインターネットの利用者は54億人で、普及率は68%。北米や欧州では約9割だが、アフリカなどでは4割程度にとどまり、地域格差も広がっている。
総務省の情報通信白書によると、あらゆるモノがネットにつながる「IoT」機器の台数は17年の189億台から22年に323億台、24年には398億台に増える見通し。衛星通信が普及すれば、離島や山間部、砂漠や海上など、世界のあらゆる場所でスマホを持ち歩くだけで、ネットに接続できるようになる。地球上のほぼ全域がインターネットにつながることになれば、スマホにとどまらず、センサーを搭載した自動運転車やロボット、ドローンの制御できる領域が広がり、地球全体のデジタル化がさらに進みそうだ。
(大越優樹、河端里咲)