台風19号上陸1週間 農業など打撃、生活再建厳しく

Nikkei Online, 2019年10月19日 20:31 更新

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川の氾濫で泥につかった田んぼ。刈り取り前の稲も被害を受けた
(19日、宮城県丸森町)=浦田晃之介撮影

東日本を中心に甚大な被害をもたらした、台風19号の上陸から19日で1週間となった。河川の氾濫などで自宅が損壊した住民約4600人(19日午前11時時点)がいまなお避難生活を送る。地域経済を支える農地や観光地にも傷痕が大きく残り、生活再建への道は厳しい。東北などの被災地では激しい雨に対する警戒が続き、住民らの間には二次災害への不安も広がる。

五福谷川が氾濫し、大量の土砂と流木が押し寄せた住宅地
(19日、宮城県丸森町)=浦田晃之介撮影

19日午後6時時点で死者は12都県で79人、行方不明者は10人に上った。総務省消防庁などによると、同日午後1時までに住宅の浸水被害は増加して4万5千棟を超えた。断水は減少したものの、同日午前11時現在、約8万戸で続いている。

堤防の決壊は同時時点で、7県の71河川130カ所で、さらに2カ所増えた。

北陸新幹線の運行が元に戻るのは年内は困難であることもJR関係者への取材で分かった。浸水による車両不足で、被災前の輸送力を確保できないため。

被害は各地のくらしを支える農業などにも及ぶ。農林水産省によると、農地の損壊は2千カ所以上。34都府県に広がった被害はコメだけでなくリンゴやイチゴ、畜産など幅広い分野にわたる。

 

宮城県丸森町では阿武隈川支流の氾濫で、収穫前の稲が泥にまみれた。倉庫にも浸水し、収穫済みのコメ約600キロが出荷できなくなった農家の男性(68)は「田んぼや倉庫の復旧にどれだけ時間がかかるかわからない」とため息をつく。

同省によると、18日午後3時時点で農林水産被害額は382億8千万円だが、今後拡大する見込みだ。担当者は「収穫期で損失は大きい。被害総額は9月の台風15号など近年の被害の水準を上回る可能性もある」と話す。

秋の行楽シーズンを迎えていた観光への打撃も大きい。

台風19号で48時間雨量が1001ミリと全国で最も多かった神奈川県箱根町は、7日に箱根山の噴火警戒レベルが下がったばかりだった。観光客が多く利用する箱根登山電車は橋脚が押し流されるなどし、一部区間が運休。観光名所「大涌谷」の立ち入り制限解除を間近に控え、町内の観光関係者は「ようやく火山活動が落ち着いたのに」と話す。

 

千曲川の氾濫で、架かる鉄橋の一部が崩落した上田電鉄別所線沿線の別所温泉(長野県上田市)では、宿泊施設の被害は少なかったが、キャンセルが続出している。旅館「かしわや本店」は10月7~31日の予約取り消しが約500人分に達し、山内寿男社長が「10月は繁忙期で、キャンセルは痛い」と肩を落とした。

 

地域の足となるバスや鉄道にも影響が残る。岩手県沿岸部を結ぶ三陸鉄道(同県宮古市)は全線163キロの63カ所で土砂崩れなどが発生、一部区間が不通となっている。

阿武隈川が氾濫した福島県郡山市では福島交通(福島市)の操車場が一時浸水し、路線バス約90台が使用できなくなった。順次運行を再開しているが、一部路線に運休などの影響が残っている。

 

台風19号の住宅被害5.6万棟超、

西日本豪雨を上回る

堤防が決壊し浸水被害を受けた住宅地(15日、長野市)

東日本を中心に甚大な被害をもたらした台風19号は、20日午後1時までに住宅の浸水被害が5万3千棟を超えた。総務省消防庁によると、浸水のほか全半壊、一部損壊を含めると住宅被害は全体で約5万6千棟となり、2018年の西日本豪雨の約5万1千棟を超えた。国土交通省などによると、この台風の影響による浸水面積は2万4千ヘクタールを超えており、西日本豪雨の約1万8500ヘクタールを上回っている。

総務省消防庁によると、住宅被害の内訳は全半壊が14都県986棟、一部損壊が28都道府県2682棟、床上浸水が16都県2万9982棟、床下浸水が21都県2万3103棟。

死者は20日午後1時時点で12都県で79人、行方不明者は10人。厚生労働省などによると、断水は19日午前11時現在、約8万戸で続いている。堤防の決壊は同時点で、7県の71河川130カ所に上った。

最多の29人が犠牲になった福島県は同日、死因や年齢などの集計を初めて公表した。溺死など水害による死亡が24人だったほか、65歳以上の高齢者が全体の約7割を占めた。