開発の力が落ちていないか

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三菱重工業は国産ジェット旅客機「スペースジェット」の開発を事実上凍結する。2008年の着手以来、約1兆円を投じながら納入延期を繰り返してきた。そこにコロナ禍が追い打ちをかけた。

飛行試験で県営名古屋空港に着陸するスペースジェット(2020年3月)

航空機は100万点単位の部品を使い、関連する産業の裾野も広い。産業振興や技術伝承の点からも開発に挑む意義は大きい。それを成し遂げる前に凍結に至った事態を重く受け止める必要がある。

スペースジェットは約半世紀ぶりの旅客機開発だ。当初13年の納入を予定したが、商業飛行に必要な航空当局からの認証の取得作業で大幅な設計変更を求められるなど納入期限を6回先送りした。

三菱重工の泉沢清次社長は記者会見で「開発活動はいったん立ち止まる」と述べた。認証取得の作業は続けるが、飛行試験などは見合わせる。

つまずく原因には自前主義への過信があったのではないか。航空機開発は年々高度化しており、開発費を軽減するために国際共同開発が潮流になりつつある。

スペースジェットは三菱重工の技術者中心に開発着手したが、「日の丸旅客機」にこだわるあまり完成機に仕上げる工程管理の力を欠いたと言わざるを得ない。

途中から経験ある外国人技術者を加えるなど修正を試みたが、従来の開発陣との連携は進まなかった。司令塔となる事業会社のトップが度々代わるなど一貫しない体制も混乱を招いたようにみえる。

航空機にとどまらず、大型開発を仕上げる日本企業の力が落ちているとすれば心配だ。プロジェクトマネジメントの力は経験しないと育たない。案件に継続的に関与することが重要だ。

総合重工業や総合電機は改めて総花主義を見直す必要がある。注力する事業の選別を大胆に進め、強い分野をより強くする企業連携を、国境を超えて進める必要がある。既存市場での優位を守るだけでなく、技術革新が生み出す新たな市場で先行するための戦略も欠かせない