スウェーデン王立科学アカデミーは5日、2021年のノーベル物理学賞を日本出身で米国籍の真鍋淑郎・米プリンストン大学上席研究員(90)らに授与すると発表した。物理法則をもとに、大気中の二酸化炭素(CO2)濃度が気候に与える影響を明らかにした。温暖化の原因を科学的に示した真鍋氏らの研究は、現在の脱炭素をめぐる議論の発端となった。
日本生まれの自然科学分野のノーベル賞受賞は19年に化学賞を受賞した旭化成の吉野彰名誉フェローに続き25人目。物理学賞の受賞は15年の梶田隆章・東京大学卓越教授に続き12人目となった。気候研究の分野でノーベル物理学賞が授与されるのは今回が初めて。
授賞理由は「地球温暖化を確実に予測する気候モデルの開発」など。人間活動が気候に与える影響の分析手法を生み出した独マックス・プランク気象学研究所のクラウス・ハッセルマン氏と、気候などの複雑な物理現象に法則性を見いだしたイタリアのローマ・サピエンツァ大学のジョルジョ・パリージ氏と共同で受賞する。
ノーベル賞の選考委員会は真鍋氏が「大気中のCO2濃度の上昇が地表の温度上昇につながることを実証した」とした。太陽から地表面が受け取るエネルギーと宇宙に逃げていくエネルギーの差し引き「放射収支」と大気の動きとの関係を世界で初めて解明し、「気候モデルの開発の基礎となった」と評した。
真鍋氏は1958年に東京大学で博士号を取得し、米気象局(現・海洋大気局)の招きを受けて渡米した。普及し始めたコンピューターを使って気象を予測する研究に取り組んだ。
独自のモデルを用いた計算で、地表から高度数十キロメートルまで現実とそっくりの大気の温度分布を再現することに成功した。
さらに、大気中のCO2の量が2倍になると地上の気温が2.3度上がると試算し、67年に発表した。CO2が長期的な気候変動に重要な役割を果たしていることを示し、世界中で温暖化研究が進むきっかけとなった。
69年には地球規模の大気の流れを模擬するモデルに、海洋から出る熱や水蒸気などの影響を加味した「大気・海洋結合モデル」を開発した。同モデルを発展させ、CO2増の気候への影響を89年に英科学誌ネイチャーに発表した。専門家が科学的な知見から温暖化を評価する国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第1次報告書でも成果が引用された。
温暖化問題の深刻さについて選考委員会のメンバーらは5日、「世界のリーダーにメッセージが伝わっているかは分からない」と記者会見で話した。そのうえで「地球温暖化という概念は確かな科学に基づいている」と強調した。受賞が決まった真鍋氏は米東部ニュージャージー州プリンストンの自宅で記者団に「気候物理学というトピックで受賞した人は過去にいない。非常に光栄に思う」と喜びを語った。
授賞式は例年12月10日に受賞者を招いてストックホルムで開催しているが、今年は新型コロナウイルスの影響でメダルや賞状の受け渡しは受賞者が居住する国で実施する。賞金は1000万スウェーデンクローナ(約1億3000万円)を3人で分け合う。