新興国感染、先進国抜く 1日5万人超え 新たなリスク

世界保健機関(WHO)のデータをもとに、新型コロナの新規感染者数を国連の基準で先進国と新興・途上国に分類して集計した。先進国は4月上中旬から4割以上減少したが、新興・途上国は拡大が止まらない。

ロシアは病院や軍で集団感染が相次ぎ、9日まで7日連続で新規感染者数が1万人を超えた。政府系研究機関は感染源の64%が病院に集中すると指摘する。ブラジルも新規感染者が1万人を超え、1日あたりの死者数は米国に次ぐ2位で推移する。サンパウロなど大都市の貧困街では外出自粛令を無視して営業を続ける店も少なくなく、こうした地域が感染拡大の温床となっている。

アフリカも急増が懸念されている。WHOによると累積の感染者数は4万人超、死者数は約1300人だが、対策をとらなければ、1年間で最大4400万人が感染して同19万人が死亡する恐れがある。とくに南アフリカやカメルーンの感染拡大に警鐘を鳴らす。

新興・途上国は先進国に比べて公的な医療体制が脆弱だ。感染拡大が医療崩壊、ひいては死者の増加につながるリスクも高い。WHOによると公的医療関連支出は国内総生産(GDP)比で3%と、先進国の8%を大きく下回る。感染拡大が目立つロシアやブラジル、イラン、インド、メキシコはいずれも世界平均(6%)を下回る。

ブラジルは憲法で公的医療を無料で受けられると定めているが、公立病院が少ない。富裕層向け病院では集中治療室(ICU)に空きがある一方、公立病院頼みの低所得者は適切な治療を受けられずに死亡する事態が相次いでいる。イランは米国の経済制裁で弱っていた医療体制にコロナ禍が追い打ちをかけた。病院では人工呼吸器に加え、マスクやガウンも不足し、被害拡大を招いた。

新興国の医療体制は崩壊寸前の状態だ(ブラジル・サンパウロの臨時病棟)=ロイター

感染爆発の危機に直面している新興・途上国だが、それでも外出禁止の解除や商店の営業再開をめざす動きは後を絶たない。3月に全土封鎖したインドは感染者が比較的少ない2割強の地域で経済活動の再開を認めた。

ブラジルのボルソナロ大統領は新型コロナを「ただの風邪」と呼び、「外出自粛は経済や雇用を破壊する」と国民に呼びかける。ロシアは6日の閣議で地方の感染状況を踏まえた行動制限の緩和を議論。モスクワでは12日から建設業や製造業の再開を認める。

経済再開を急ぐ背景には、財政や経済の弱さがある。先進国のような手厚い補償や現金給付を提供できず、国民の不満が政府へ向かいやすい。イランは専門家の「時期尚早」との警告を押し切って行動制限を緩和した。

新興・途上国は外出規制などに伴う経済対策で財政赤字が膨らみ、これを不安視する海外マネーの流出を招いている。その結果、自国通貨の相場が下落し、対外債務の実質負担を高めるという悪循環に陥っている。国際通貨基金(IMF)には100カ国以上が緊急融資を求めている。

新興・途上国の感染爆発を止められなければ、世界の新型コロナへの戦いに終止符は打てない。対外債務の不履行などが広がれば、世界経済にも大混乱が広がる懸念がある。医療・経済の両面でグローバルな支援体制の構築が求められている。

(サンパウロ=外山尚之、黄田和宏、真鍋和也)