感染再拡大、3つの懸念 情報把握・陽性率・入院数

東京・新宿駅前をマスク姿で歩く人たち(25日)=共同

感染再拡大が顕著になってきた新型コロナウイルスへの備えに懸念が広がっている。感染情報を共有する国のシステムは新規感染の半分を占める東京と大阪が参加せず、全国の感染動向を迅速に把握できない。市中感染の広がりを示す陽性率も上昇しており、医療体制の再点検が欠かせない。

■ 感染情報共有、東京・大阪抜き

新システム「HER-SYS(ハーシス)」は、緊急事態宣言が全面解除された5月末に稼働した。医療機関などが感染者の発生や入退院、症状の重さ、行動歴といったデータを直接入力し、国と都道府県が共有・分析する。感染状況をリアルタイムで把握できるので、迅速な政策判断に役立つほか、濃厚接触者などの対応で他の自治体と連携しやすい。保健所が医療機関と電話やファクスでやり取りする従来業務の効率化も期待される。

厚生労働省によると、22日時点で保健所を置く155の自治体のうち122が利用する。残る自治体は東京都、大阪府と、それぞれの域内の31市区だが、25日に国内で確認された感染者748人(午後9時現在)のうち427人は東京と大阪だった。過半数の情報を欠く中で運用する状態だ。


都内では緊急事態宣言の解除後、感染者が再び増え始め、7月はほぼ3桁で推移。25日も新たに295人の新規感染が報告され、5日連続で200人を上回った。医療現場や保健所が多忙になり、新システム移行に踏み切りにくい側面がある。

現状は、保健所からファクスを受信する福祉保健局の職員約10人が独自のシステムに情報を打ち込み、管理する。症状に気付いてから検査結果が出るまでの平均日数は約5日で、結果公表までさらに2日程度かかる。

都が不参加のままでは全国の感染動向を適切に把握できず、対策を見誤る恐れがある。都も将来的に新システムを使いたいとの意向はある。厚労省は旧システムからのデータ移行を支援するため、人材を派遣するなどしており「早期に東京、大阪も含めた全面導入につなげたい」とする。

■ 陽性率上昇、市中感染の可能性

都市部を中心に陽性率が上昇している点も懸念材料の一つ。「検査数の増加が感染者増加の一因」などとする国や都の説明だけでは十分に説明しきれず、市中感染が広がっている可能性が高い。

都によると、1日の検査人数(7日移動平均)は5月下旬から右肩上がりで増え、今月13日には3千人を超えた。緊急事態宣言が発令された4月上旬の10倍の水準だ。

検査網を広げると陽性率は下がるとされるが、都内では5月下旬の1%台から7月16日以降は6%台が続く。大阪は7日移動平均で8.0%に達した。感染が拡大した4月のように検査が追いつかず、取りこぼしが起きている可能性があり、検査体制の拡充は急務だ。

■ 入院、東京で1000人超える

無症状者や軽症者の一部など、ホテルや自宅で療養する人を除く入院者数も増えている。都内では24日時点で1千人を超えた。重症者は都内で16人、全国でも25日時点で64人にとどまるが、重症化リスクの高い高齢者の感染も目立つ。新型コロナは発症から10日ほどで重症化する傾向にあり、全国で4月に重症者が最も増えたのは同月下旬に入ってからと、新規感染がピークを迎えて1週間ほど経過した後だった。

重症者向け病床は体外式膜型人工肺(ECMO=エクモ)などが使えるスタッフが欠かせず、受け入れ病院も限られる。需要を見誤ると瞬時に医療崩壊に直結する。政府の対策分科会の尾身茂会長は4月と比べ感染拡大のペースは緩やかとする一方、「今の段階で考えられる最悪の状況はじわじわ増えて、医療が逼迫することだ」として医療体制の増強を訴える。