感染「次、日本で拡大も」東北大教授・押谷仁氏

専門家に聞く

新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大が止まらない。湖北省武漢市から中国全土に広がり、世界的な大流行(パンデミック)になる可能性も出てきた。2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)の際に世界保健機関(WHO)の感染症対策の最前線にいた東北大学の押谷仁教授に、新型肺炎の特徴と今後の見通しを聞いた。

武漢では想像のできないようなスピードで感染が広がっている。帰国した邦人の1%がかかっているところからみると10万人以上の規模に拡大している可能性がある。隠しているわけでなく、この規模だと検査が追いつかず、数えられないのが現実だろう。

中国の各都市では武漢から2~3週間遅れて流行が始まった。今後、すべての場所が武漢のようになるかを注視していかなければならない。

今回の病原体はSARSと同じコロナウイルスだが、感染力や病原性はかなり違う。そのことがコントロールを難しくしている。

武漢で感染者が出た早い時期にコロナウイルスは見つかっていた。SARSに準ずる形で肺炎患者を徹底的に見つけ、隔離し、接触者を割り出す対応をしていたと考えられる。この対策が通用しなかった。初動に不手際があったとは思わない。我々でも同じ対応で同じ失敗をしていただろう。

SARSと違い、軽症者やウイルスに感染しても症状が出ない人がかなりの割合でいることが、対応を困難にしている。人から人に感染が広がっていく感染連鎖が見えない。潜伏期間でも感染するとなると、封じ込めを目指した公衆衛生対策にとって致命的だ。負け戦でしかない。

日本と中国との人の行き来を考えると、中国以外の国で最初に感染拡大するのが日本になる可能性は十分に考えられる。日本で感染連鎖がすでに成立している可能性もある。ある日突然、それまで見えなかった流行が顕在化することになる。

湖北省滞在の外国人の入国を一部拒否するなど、日本政府は水際対策の強化に乗り出しているが今となっては遅すぎるのではないか。仮に日本が中国の次に大きな流行を起こす国になったとき、日本が中国にやろうとしていることを世界からやられても文句は言えない。

今は国際社会が協力して対応を考えていく必要がある。WHOが主導権をとって中国とも協力してこのグローバルな問題に向き合わなければならない。WHOはその努力をしていると思う。

SARSから17年たち、中国の対応能力は格段にあがった。危機管理や感染症対策、優秀な研究者も育ってきている。ただ、中国政府や中国疾病対策センターから発信される情報が乏しいのが気になる。最新の疫学調査の結果などいち早く世界が知らなければならない情報が、学術論文による発信では遅すぎる。

今回の感染症は人類が経験したことのない、まったく新しいタイプの呼吸器ウイルスによる感染症だ。いつどのような形で終わるかは見通せないが、今夏の東京五輪までに収束している可能性は低い。

(聞き手は編集委員 矢野寿彦)

おしたに・ひとし 東北大医学部卒で医学博士。ウイルス学が専門。2003年のSARSでは、WHOの感染症対策アドバイザーとして事態の収拾にあたった。60歳。