コロナワクチン普及に不透明感 日本、出足の遅れ響く


新型コロナワクチンの接種は54カ国・地域で
始まっている=ロイター

新型コロナウイルス感染症のワクチンの普及に不透明感が高まっている。海外では50カ国以上で接種が始まっているが、日本では承認も終わっていない。米ファイザーなどメーカーからの供給の量や時期も不明確な部分が多く、接種の準備を進める自治体からは困惑の声があがる。

ワクチン担当相に就いた河野太郎規制改革相はこれに先立つ同日の閣議後の記者会見で「具体的な供給スケジュールは今の時点で未定」と説明した。21日に坂井学官房副長官が「6月までに対象のすべての国民に必要な数量の確保を見込んでいる」とした発言は「削除する」とした。閣僚が政府高官の発言を否定するのは極めて異例だ。

こうした状況を受け菅義偉首相も同日夕の政府対策本部では「合計3億1400万回分の供給を受ける契約の締結に至った。速やかに届けて一日も早く感染を収束させたい」と述べるにとどめた。

政府は医療従事者については2月下旬までの接種スタートをめざし、3月中にはリスクの高い高齢者に対象を広げると想定する。だが基礎疾患のある人や一般の人への接種スケジュールは明確にできていない。なぜここまで滞っているのか。

発端は新型コロナの感染拡大が本格化した昨年4月に遡る。ワクチン開発で先行する米ファイザーは国際共同治験を開始した。治験は原則は国ごとの実施だが、複数の国で共同実施することもできる。国ごとの実施より精度は落ちる一方で、スピードは速められる。

ファイザーは治験の対象国に米国やドイツ、ブラジル、南アフリカなどを選び日本をはじめアジアは入れなかった。理由は明らかにされていないが、日本は感染者数が相対的に少なかったため治験にふさわしくないと判断されたもようだ。

結果的に共同治験のデータを利用しやすい欧米がワクチンの承認で先行した。共同治験の対象にならず出足で遅れた日本や韓国は今も接種を始められていない。枠組みに入らなかった時点で将来のワクチン供給に遅れが出る事態は想像できたはずだが、特別な対策に動いた形跡はない。

厚生労働省所管で審査を担当する医薬品医療機器総合機構は9月になり、国内のワクチン承認には日本人の治験が必要とする指針を決定した。ファイザーは共同治験から半年遅れの10月に日本でも治験を始めた。

日本は2月下旬にまず医療従事者への接種開始をめざす青写真を描いたが、昨年末時点ではファイザーとの契約は基本合意止まりだった。まだ正式契約に至っていないと知った官邸は厚労省への不満を募らせ、ワシントンの日本大使館に直接、ファイザー米国本社と交渉するよう指示した。

ワクチン接種に向けた主導役として官邸が河野太郎氏を据えた2日後の20日になって、日本はようやくファイザーとワクチン供給で正式契約を結んだ。従来の基本合意では6月までに1億2000万回分(6000万人分)の供給を受ける内容だったはずだが、正式契約では年内に1億4400万回(7200万人分)に変わった。分量は増えたが接種スケジュールが先送りになる可能性は否定できない。

日本経済新聞と英フィナンシャル・タイムズの共同集計によると、22日時点で世界の54カ国・地域が接種を開始し、接種回数は累計で5600万回以上に達する。イスラエルはネタニヤフ首相自らがファイザーの最高経営責任者(CEO)と直接交渉しスピード接種につなげたとされる。

世界で感染拡大の勢いが収まらず、国家間のワクチン争奪戦はますます熱を帯びる。日本も遅れを取り戻したいところだが、ファイザー以外にワクチン調達で契約している英製薬大手アストラゼネカと米モデルナもスケジュールが見えない。

ファイザーより早く日本で治験を始めたアストラゼネカは、まだ日本で承認申請を出していない。3月までに3000万回分とする契約にもとづく供給のスケジュールは遅れる可能性がある。モデルナは21日にようやく日本で治験を始めたばかりだ。

国がワクチン調達の時期や量を確定できない影響は、実際にワクチンの接種を実施する自治体に及ぶ。千葉市は住民向けについて集団接種と個別病院での接種の2つの方法で検討し、医師や看護師の確保で医師会と調整を進めている。担当者は「届くワクチンの量がわからないため具体的なスケジュールが立てられない」と話す。

日本は初動で遅れて時間を空費し、契約でも後手に回った。コロナ禍という未曽有の事態を前にしても危機感を高められなかったツケがいま出ている。早急に体制を立て直せなければ感染収束や景気浮上への道筋は描けない。

東京都の小池百合子知事は22日、ワクチンについて「取り扱いや順番、予約など色々課題がある。できるだけ早く国の方針を示していただけるように都からも要望していきたい」と述べた。

山形市の佐藤孝弘市長は「場所の確保に課題がある」とする。かつての集団接種のように公民館などに集まってもらう方法ならワクチンの量や接種頻度によって密集状態になってしまうと懸念する。感染収束のカギを握る円滑な接種拡大に向け、国がワクチン調達の明確な見通しを示すことは不可欠だ。