トヨタ、福岡にEV電池工場 完成車のアジア供給網構築

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Nikkei Online, 2024年7月26日 14:00

国内の電池供給網を整備しEVの競争力を高める

トヨタ自動車は福岡県に電気自動車(EV)向けリチウムイオン電池工場を新設する。電池は高級車ブランド「レクサス」を生産する同県の工場へ供給する。九州ではEVや自動運転に必要な先端半導体工場の新増設も相次ぐ。中国勢はEVで台頭し、日本勢はアジアの生産を縮小している。九州でEVの一大供給網を築き、輸出拡大に向けた反攻の足がかりにする。

福岡県が北東部で造成している「苅田港新松山臨海工業団地」(福岡県苅田町)で用地を取得する。経済産業省も経済安全保障推進法に基づき、新工場建設を助成する見通し。運営は電池生産子会社プライムアースEVエナジー(PEVE、静岡県湖西市)が担う。

電池新工場はレクサス車両を組み立てるトヨタ自動車九州(福岡県宮若市)の宮田工場(同)まで約40キロメートルの位置に立地する。宮田工場の生産能力は年43万台で、うち9割を主にアジア向けに輸出している。新工場は宮田工場向け電池供給の主力拠点となる見通し。着工時期や投資額などは今後詰める。

トヨタ自動車九州の宮田工場(福岡県宮若市)

トヨタは2030年までに電池を中心にEV関連に5兆円を投資する計画を打ち出している。電池ではすでに米国で累計2兆円の投資を決め、日本ではパナソニックホールディングス(HD)との共同出資会社の姫路工場(兵庫県姫路市)などに3000億円規模を投資する。

日本でトヨタは愛知県と兵庫県、静岡県などに電池の生産拠点を構えていたが、福岡県にも新たに電池供給網を築く。

トヨタは30年までにEVの世界販売台数を年間350万台まで増やす計画を掲げる。レクサスはEV戦略の柱で、35年までにレクサスブランドの全車種をEVにする。九州はレクサスの主力生産拠点だ。

車載用電池は大きくて重いため、組み立て工場の近くで生産・供給する体制を整え、レクサスのコスト競争力を高める。

九州にはEVや自動運転に必要な半導体や画像センサーなどの先端技術の生産拠点が集積する。

車載コンピューターに使う先端のロジック(頭脳用)半導体は台湾積体電路製造(TSMC)とデンソーなどの合弁企業が熊本県で生産し、自動運転の目となる画像センサーはソニーグループが熊本県で造る。EVの省エネ性能を左右するパワー半導体も三菱電機ロームが九州に生産拠点を置く。

電池や半導体などEVの中核部品が九州に集積することで、生産だけでなく技術開発の向上にもつながる。九州ではダイハツ工業や日産自動車も完成車を生産し、中四国地方ではマツダが主力生産拠点を置き、EV供給網の恩恵を得やすい。

九州EV供給網は完成車の輸出競争力も底上げできる。九州を中心とすると中国の上海や大連と、東京の距離は1000キロメートル強とほぼ等しく、東南アジアにも近い。日本車がアジアで中国台頭により劣勢に回るなか、アジアへのEVの輸出拠点として補完関係を築ける。

日本政府も蓄電池を経済安全保障上の戦略物資と位置づけ、製造能力の拡大に力を入れている。政治的な対立や災害による海外からの供給途絶を防ぐためにも、国内での安定的な生産は欠かせない。経産省は23年にはトヨタやホンダ・GSユアサによる車載電池の開発・製造など複数の計画に3000億円あまりを支援した。

足元でも補助金向けに5000億円程度の予算を確保している。半導体支援と合わせ九州を自動車産業の集積拠点として支援する方針だ。官民で九州のEV供給網を育て、国内の自動車産業の挽回につなげる。

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