与野党が消費税減税で横並び 

見えぬ財源年5兆円、成長戦略どこへ

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Nikkei Online, 2026年1月20日 2:00

高市早苗首相の19日の解散表明で衆院選の2月8日投開票が固まった。与野党が物価高対策として消費税減税で競い合う構図が強まっている。各党は家計に配慮する姿勢を見せているが、円安や金利上昇が進めば、かえって家計や日本経済の重荷になりかねない。

首相、食品の軽減税率「私自身の悲願」

首相は19日の記者会見で、食品を2年間は消費税の対象としないことについて「実現に向けた検討を加速する」と明言した。今後設置する国民会議で財源やスケジュールなどを議論する考えを示した。

食品の軽減税率をめぐり、自民党と日本維新の会は昨年10月に結んだ連立政権の合意書で「2年間に限り消費税の対象としないことも視野に、法制化につき検討を行う」と記していた。首相はこの合意に触れたうえで「私自身の悲願だ」と強調した。

維新も自民と足並みをそろえ、食品の消費税率を2年間の時限措置として0%とする公約を掲げる方針だ。

野党の主張に追随、争点つぶす効果狙う?

高市政権の減税論への傾斜は、選挙を前に野党の主張に追随している面が大きい。

立憲民主党と公明党がつくった新党「中道改革連合」は19日に公表した基本政策に「食料品消費税ゼロ」を盛り込んだ。

昨年夏の参院選では野党が消費税減税を掲げる一方、自民党は給付金による物価高対策を訴えて反対の立場だった。消費税減税の是非が争点の一つとなった。自民党は参院選の敗北後にまとめた総括のなかで「物価高対策が国民に刺さらず、争点設定も不発だった」と振り返った。

次の衆院選に向けて自民・維新が消費税減税の側に立つことで、与野党間の政策の争点をつぶす効果を狙ったとの見方がある。

財源確保見通せず、金融市場は懸念

与野党がいずれも減税論に傾く状況に、金融市場は懸念を強めている。食品の消費税をゼロにした場合、年間5兆円ほどの税収減になるとされる。安定的な財源確保の議論が進まずに減税先行となれば、社会保障を支える消費税収に大きな穴が開きかねない。

首相は財源について「歳出歳入全般の見直しが考えられる」と述べた。赤字国債に頼らず検討する姿勢を示したものの5兆円の確保は容易ではない。

高市政権が発足してから決めたガソリンや軽油にかかる旧暫定税率の廃止や高校無償化などでも財源確保は先送りされてきた。合わせて2.2兆円の財源が必要になるところ、租税特別措置と呼ぶ政策減税の見直しや歳出削減で確保できた財源は1.4兆円程度にとどまる。

中道改革は財源確保の手段に言及してはいる。公明党の西田実仁幹事長は新たに設ける政府系ファンドの運用で財源をまかなうと主張し「食品の消費税を恒久的にゼロにすることができる」とも述べる。ただ、毎年5兆円も安定的に確保できる仕組みが実現できるかどうかは不透明だ。

GDP押し上げ「2年目以降は期待できない」との指摘

野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは、時限的に食品にかかる消費税をゼロにした場合、実質GDP(国内総生産)を1年間で0.22%押し上げると試算する。そのうえで「2年目以降は押し上げ効果はほぼ期待できない。財政と通貨の信認が傷つくことによる円安・金利上昇で日本経済が受ける代償と比べれば、経済的な恩恵は小さい」と指摘する。

高市政権は中低所得者への支援として、所得税額から一定額を差し引く税額控除と給付を組み合わせた給付付き税額控除の導入を主張してきた。木内氏は「財政に対して責任ある姿勢を示すなら、消費税減税より給付付き税額控除の議論を急ぐべきだ」と話す。

高市政権が掲げる「責任ある積極財政」や「強い経済」は、需要を刺激するデフレ時代の政策ではなく、日本経済のボトルネックである供給力の強化に力点があったはずだ。消費税減税は需要を喚起して物価高を助長するリスクをはらむうえ、本来必要な成長戦略の議論がかすむおそれがある。

財源の不確かな大規模減税によって日本の財政の信認が揺らげば、政権の看板政策である人工知能(AI)や半導体など17分野に対する成長投資の実現にも響きかねない。


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