ワクチン接種一元管理、日本のDX試す
 続く失敗断てるか

Nikkei Online, 2021年1月29日 5:42更新


新型コロナワクチン接種は
全国民の安全に関わる巨大事業となる
(27日、川崎市で行われた接種会場運営訓練)

政府は新型コロナウイルスのワクチンの接種に向け、全国の自治体の情報を一元管理する仕組みをつくる。当初はデータ形式などがばらばらな各地方自治体の既存のシステムを基盤にする意向だったが、混乱や遅れを懸念する声が上がり急きょ方針転換した。昨年来、政府は新型コロナ禍でデジタルトランスフォーメーション(DX)の失敗を重ねてきた。全国民の安全に関わる巨大事業は日本を変える試金石になる。

4月には3600万人ほどに上る65歳以上の高齢者への接種を始める。一定期間をおいて同種のワクチンを2回打つ想定になる。安全のため「いつ、何を、何回接種した」をリアルタイムで把握しなければならない。

今月中旬まで、厚生労働省は従来通り情報管理の体制を自治体任せにしようとしていた。麻疹ワクチンの接種などで各自治体が使う「予防接種台帳」を用いる方針だった。

同台帳のシステムは各自治体がそれぞれベンダーを選び、全国に独自の形式が乱立する。自治体に情報を残す規定がある予防接種法が自前主義につながってきた。

台帳はデータ形式がばらばらなだけでなく、2年前の調査では紙も残っていた。

平井卓也デジタル改革相は28日の参院予算委員会で、同台帳を使って全国のデータを集計するのは問題だと指摘した。「集計は通常3、4カ月後でないとわからない。もしかしたら半年後くらいになる」と語った。

これでは転居した人の状況の捕捉や、複数回の接種の管理でミスが発生しかねない。大規模接種に備え、各自治体が改修する必要もある。一部自治体が国全体での対策を求めたが厚労省は動かなかった。

危機感を抱いたのは首相官邸だ。18日に河野太郎規制改革相が調整役に任命されると、19日に平井氏と相談して全国一律の新システムの導入を決めた。

自治体ごとの接種台帳ではなく、住民基本台帳を基盤に一元化システムをつくる。住所、氏名などの変更は自治体の枠を超えてすぐ反映される。

接種にマイナンバーは必要ない。自治体から受け取るクーポン券を接種会場で提示する。免許証など本人証明を示し、券に記載したQRコードを読み取ってもらう。接種を終えた人のスマートフォンに「デジタル接種証明書」を送る案もある。

新型コロナ禍では、政府のDXの遅れが幾度も問題になってきた。人命にも関わるワクチン接種で同じ轍(てつ)を踏むわけにはいかない。

昨春に実施した1人一律10万円の給付では、マイナンバーカードの専用サイト「マイナポータル」でオンライン申請を受け付けた。

ところが申請データと住基台帳を自動で照合するシステム改修が間に合わない自治体があった。職員が手作業で確認し、給付がなかなか受けられない人が続出した。

昨年5月には国と自治体で感染者情報をクラウドで集約するシステム「ハーシス」が稼働した。しかし入力項目が多いなど「使い勝手が悪い」と不満があがり、利用は広がらない。いまも自治体の中にはファクスで情報を受け取るケースがあり、十分活用できていない。

雇用調整助成金はオンライン申請に対応しておらず、昨春には感染拡大の最中にハローワークの窓口に人が殺到した。厚労省は昨年5月に慌ててオンライン対応したが、情報漏洩で2度も停止した。

接種が進むイスラエルは日本と同じ国民皆保険の国だ。日本との違いはデジタル化の深度になる。「デジタルヘルス」を掲げる同国は昔から病歴も含めて個人情報を一元管理してきた。

その仕組みが今回の接種情報の管理にも使われた結果、いまは国民1人当たりの接種回数で他国を圧倒している。DXの差は感染収束に直結し、国力も左右する。