日本市場の魅力、世界197位
 官民で投資・成長の循環を

日本株はよみがえるか?

海外企業にとって日本の魅力は北朝鮮以下――。一見、冗談に思える。投資の世界では事実だ。国連貿易開発会議(UNCTAD)によると、各国の国内総生産(GDP)に対する海外勢による累積の投資額(出資や設備投資、融資などの合算)の割合は、2021年時点で日本は5.2%。北朝鮮(5.9%)を下回り、200カ国・地域中197位だ。

1990年代後半まで他の先進国と比べて外資参入の規制が厳しかった影響はある。とはいえ、21年単年の投資額のGDP比でも日本は0.5%と、主要7カ国平均の1.3%を下回る。

日本企業も国内より海外に投資の軸足を置いている。日本政策投資銀行(DBJ)の調べでは、日本企業による22年度計画の国内の設備投資水準は02年度比で8割増にとどまるのに対し、海外は2.4倍に増えている。

市場としての日本の魅力が海外に見劣りしているためだ。日本株にとってひとごとではない。日本の多くの上場企業は国内市場に稼ぎを依存している。QUICK・ファクトセットで売上高の9割以上を自国市場が占める上場企業の割合(全上場ベース)を調べたところ、米国は全体の6割、欧州は5割に対し、日本は7割に上った。国内市場が低迷すれば、これら企業の成長期待も下がりやすい。

原因を探ると、人口減で縮小均衡に陥っていることや、経営層が英語でコミュニケーションを取れないことなど、一朝一夕には解決しない問題が浮かび上がる。日本の研究開発の最大の課題は人手不足(DBJ調査)とされるなど、高度人材の少なさも深刻だ。

熊本県菊陽町で建設が進む台湾積体電路製造(TSMC)新工場(23年1月)

民間の力だけで投資を呼び込むには限界がある。「かなり周辺の景気がいいな」――。第一生命経済研究所の永浜利広首席エコノミストは半導体製造大手の台湾積体電路製造(TSMC)が半導体工場を新設する熊本県周辺を視察して驚いた。

京セラは半導体関連の需要を取り込むため、鹿児島県の主力工場2拠点を増設しているほか、長崎県諫早市にも新工場を建設する。ソニーグループは熊本県内に画像センサーの新工場建設を検討。TSMCの工場から半導体を供給してもらう計画とされる。熊本大学では最先端の半導体生産に携われる高度人材を育てようと、専門の教育センターを設置した。工場新設をきっかけにモノやヒト、カネが動きだしている。

TSMCが日本進出を決めた大きな要因が政府の支援だ。拠点整備などに最大4760億円支給する。「米国や欧米に比べると、生産や開発拠点の国内回帰に向けた政府支援はまだ規模が小さい」と東京大学の鎌倉夏来准教授は指摘する。少子高齢化問題を含め、国家が解決を主導すべき課題は多い。

影響力を増す中国を念頭に、各国政府は有利な供給網を築こうと自国への投資誘致に躍起になっている。とはいえ、行き過ぎた国家介入は経済の非効率化につながる。20年の東芝の株主総会で同社は経済産業省に働きかけ、アクティビスト(物言う株主)に圧力をかけたとされ、海外投資家に日本の国策リスクが強く意識された。

必要なのは国家の関与と市場原理のバランスだろう。内閣府によると、経済の地力を映すとされる日本の潜在成長率は21年度で 0.5%にとどまる。このままでは経済の現状維持が精いっぱいで、世界との差は開き続ける。日本株の長期低迷をもたらしている問題はいずれも根深く、官民両面での対策が必要なものも多い。日本株が復活するとき、日本経済の浮揚もみえてくるはずだ。

蛭田和也、佐藤俊簡、佐伯遼、小池颯、五味梨緒奈、野口知宏が担当しました。

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