ラピダス「城下町」北海道千歳市、三菱商事とまちづくり

北海道千歳市は三菱商事と工業団地など新しいまちづくりに取り組む。最先端半導体の製造を目指すラピダスの工場誘致を機に、産業集積が進むとみられる千歳。
三菱商事は工業団地などで再生可能エネルギーの活用を促すほか、異なる企業同士が連携できる研究開発(R&D)拠点の整備も視野に入れる。

三菱商事などは22〜23年に新千歳空港を中心とした水素の利活用に向け調査を実施した
(北海道千歳市の新千歳空港)

千歳市は8月、三菱商事と連携協定を結んだ。同社や北海道電力などは2022〜23年、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの受託で、新千歳空港(千歳市)を中心とする水素の利活用に向け調査していた。この縁が両者の連携につながった。

「日本の底力を高めていかないといけない」と話すのは、三菱商事都市インフラ本部の糸川裕樹本部長だ。同社は24年度までの中期経営計画で、脱炭素に向けた取り組みとデジタルトランスフォーメーション(DX)を組み合わせながら、地域創生や新産業創出を図る成長戦略を掲げた。

「脱炭素は全産業の課題。様々なビジネスラインが融合した形でソリューションビジネスを進めていく必要がある」(糸川氏)。地方都市は格好の実戦の場だ。三菱商事は、現在の中計が始まった22年以降、岡山県倉敷市に熊本県八代市、千葉県銚子市などと、自治体との連携協定を矢継ぎ早に打ち出している。

ラピダス工場起工式後の会見に出席した千歳市の横田隆一市長㊨(9月、北海道千歳市)

一連の連携のテーマは自治体単位での脱炭素やDXの推進。千歳市も50年までに温暖化ガスの排出量実質ゼロ(カーボンニュートラル)を実現すると宣言しており、脱炭素は連携協定の主眼となっている。

新千歳空港の立地自治体で11カ所の工業団地を抱える千歳市。ラピダスの工場建設で関連産業の進出も見込まれ、新たな工業団地の造成計画も進む。ただ、産業界全体で脱炭素に突き進む中、再生可能エネルギーを活用できる体制を整えなければ、これからの産業集積の実現は遠い。

「再生エネの需要に対して供給が足りていないのが現状。道内で開発していきたい」。糸川氏はこう話す。

道内の大規模な発電所などへ投資し、離れた企業の工場などに電気を送る「オフサイトPPA(電力購入契約)」のようなモデルで市内の工業団地に再生エネを供給しようと構想する。工業団地ではデジタル技術を活用したソフト面も整備、企業間などで連携しやすい体制も整える。

千歳市と三菱商事の連携では脱炭素社会の実現に向けたまちづくりも重要なテーマだ。ラピダスの進出を巡っては、足元で10万人弱の千歳市の人口が工場1棟につき1万人増えるとの見方もある。工場は最大で4棟設けられる可能性がある。三菱商事は千歳市が推進するまちづくりのマスタープラン作成を支援する考えだ。

糸川氏は「地域に根付くため、なんらかの橋頭堡(ほ)となるようなものにもコミットしないといけない」と述べ、住宅開発などへの関与にも積極姿勢を見せる。ラピダスは北海道の石狩市から苫小牧市まで帯状に半導体・IT(情報技術)関連産業が集積する「北海道バレー構想」を掲げる。

これに呼応するようにベルギーの半導体研究開発機関「imec(アイメック)」などが北海道にR&D施設を置く方針を明らかにしている。三菱商事はオープンイノベーションの拠点の整備も視野に入れ始めた。

千歳市の横田隆一市長は「ともにまちづくりに取り組み、『千歳モデル』として全国各地に展開してもらいたい」と三菱商事に期待をかける。「行政だけではできないことを民間が協力しながら進める」と糸川氏は力を込めて話す。

(高尾泰朗)


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