街角ゴミ箱「置いたら負け」か 道頓堀や伊香保で脱却模索

観光地でゴミのポイ捨てが問題となっている(6日午前、大阪市中央区の道頓堀)

新型コロナウイルス対策緩和の影響でインバウンド(訪日外国人)など観光客が戻るなか、街角にゴミ箱を再び設置する動きが観光地などで広がる。国内のゴミ箱は過去30年で撤去が進み、訪日客もその少なさを指摘する。背景に浮かぶのは「置いたら負け」とも指摘されたコストと管理の難しさ。各地の関係者は新技術を駆使したゴミ箱などを武器に課題と向き合い、街の美化に挑む。

たこ焼きなどのテイクアウト店が並ぶ大阪・ミナミの道頓堀。路上にはペットボトルなどのゴミが散乱し、空になった容器を持て余す観光客の姿も目立つ。

道頓堀商店会(大阪市中央区)は今秋、約400メートルのメインストリート数カ所にゴミ箱を新たに置く計画を進めている。今年1月の試験導入では、ポイ捨てが重量ベースで約4割減った。

大阪・ミナミの道頓堀は内容物を圧縮できるゴミ箱を置く実証実験を行った

群馬県渋川市の伊香保温泉では3月、観光客が歩く石段の道2カ所にゴミ箱を新設した。燃えるゴミとペットボトルなどを入れる2種類を用意し、それぞれに英語や中国語のほか、ピクトグラムで分別方法を表記した。「外国の人の利便性を上げたい」と市の担当者は狙いを説明する。

市の担当者が参考にしたのは、訪日客数がピークだった2019年に国が実施した調査。訪日客の困り事としてWi-Fiなど通信環境や言語の違いによるコミュニケーションの問題を抑えて最多だったのが「ゴミ箱の少なさ」(複数回答で23%)だった。

なぜ日本は街頭のゴミ箱が少ないのか。調べてみると、過去30年ほどで撤去が進んだ経緯が浮かび上がる。

要因の一つが管理の難しさだ。回収が遅れてゴミがあふれると、いわゆる「割れ窓」理論で周辺へのポイ捨てを助長するが、頻繁に回収を行うには費用がかさむ。

1990年代以降、各地で家庭ゴミの廃棄が有料化され、家庭からの持ち込み事例が頻発。公平性を理由にゴミ箱の廃止が相次いだ。

95年の地下鉄サリン事件前後からは安全対策の観点からも撤去が進んだ。新型コロナウイルス禍では、感染リスクを減らすためコンビニなどがゴミ箱を店先から店内に移した。

大阪市は主要交差点などに最大約5000個あったゴミ箱を2009年度から順次減らし、今はゼロだ。乗降客の多い駅周辺を中心に約310個を置いていた東京都新宿区も04年度に撤去している。

ゴミ箱を置けばゴミが集中して捨てられ、景観や住環境が悪化する。頻繁に回収し、処分するには費用がかかる。手間とコストを踏まえると「管理者が『置いたら負け』とまで言う状態になっていた」と、ゴミ問題に詳しい大阪公立大学の水谷聡准教授(廃棄物管理工学)は指摘する。

水谷准教授は「公平性や安全性など市民の理解を得やすい理由が出てくる度に撤去が進んだ。設置しない方が管理者側の負担は軽いため、戻そうという動きが鈍かったとの見方もできる」と話す。

日本特有の事情として「ゴミ箱がなくてもあまり街が汚れなかった」点にも触れ、「ポイ捨てをしないモラルの高さや住民のボランティアによる清掃など善意で街が清潔に保たれてきた面がある」とも強調する。

再設置に舵(かじ)を切る地域はその多くが観光地。コロナ対策の緩和でインバウンドが急回復しにぎわいが戻るなか、食べ歩きした食品や飲み物の空き容器のポイ捨てが目立つようになった。

管理面や安全面への配慮など、これまでの課題に一定の解をもたらしたのが新たな技術だ。伊香保温泉などに置かれたゴミ箱は内容物を5〜6分の1に圧縮できるほか、満杯に近づくと通知するため、あふれるのをふせげる。ゴミの投入口を遮蔽できるボードを付属しており、多くの人が集まるイベント時などに不審物などを入れられないように使用を制限できる。

この「IoTゴミ箱」を日本で販売するスタートアップのフォーステック(東京・千代田)によると、既に米国やオランダなど世界60カ国以上で8万台導入されているという。日本でも2020年以降、東京・表参道などに置かれている。

ゴミ箱が少ない日本では「新設」になることが多く、新たに発生してしまう費用を賄うため、ゴミ箱本体に広告を掲載できる仕組みも取り入れている。

費用を賄う工夫はほかにもある。埼玉県川越市では、蔵造りの町並みで知られる商店街と旅行大手のJTBが連携し、店の前にゴミ箱を設置する実験を行った。

スマートフォンで利用客に任意で「協力金」を払ってもらう仕組みで、1カ月で2万円が集まった。JTBの担当者は「費用を賄うには足りないが、お金を支払ってくれる人が一定数いることがわかった」と話し、今後の事業化を検討する。

大阪公立大学の水谷准教授は「訪日客の増加や地域コミュニティーの希薄化が進むなか、ゴミ箱を置かない従来のやり方が限界に来ている地域もあるのでは」と指摘。

その上で「設置することでゴミの持ち帰りが減ったり、回収や処理の費用が増えたりする可能性もある。メリットとデメリットを考え、何が地域の利益になるか検討して決めるべきだ」と話す。

設置に否定的意見も、自治体のかじ取り難しく

観光地のゴミ箱設置を巡っては地域住民からは否定的な意見も上がり、難しい判断を迫られている自治体も目立つ。

観光客が多く訪れる世界遺産の白川郷(岐阜県白川村)でもかつてゴミ箱を設置していたが、ツアー客の弁当容器が大量廃棄されるなどして処理が追いつかず、2000年ごろまでに撤去した。

同村によると、最近はゴミが公衆トイレなどに捨てられることが多い。対策が求められるものの、担当者は「村には処理施設もなく、ゴミがまた増えるのは困る」として頭を悩ます。

横浜市は22年に横浜港に面する山下公園のゴミ箱をなくした。市民から「あふれたごみが風で飛ばされ、海を汚す。数を増やすか、撤去するかしてほしい」などと要望があり、一時的に封鎖するなどの検証後に撤去を決めた。

東京都新宿区など00年代以降にゴミ箱を撤去した他の自治体では、観光客の増加などをうけて再設置を求める声が時折あがるという。ただ「管理できずかえって街が汚れる」などという周辺住民の意見もあり、設置には至っていないのが現状だ。

(蓑輪星使)


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