5人に1人が「ひとり死」 後顧の憂い、なくせる社会に

1億人の未来図




未婚率が上昇し、2050年には30万人を超す人が生涯結婚しないまま亡くなる見通しだ。ほぼ5人に1人が「ひとり死」を迎えることになる。後顧の憂いをなくそうと、血縁によらない埋葬や、第三者に遺品処理を委ねるケースが増える。誰しも同じ状況に置かれる可能性はあり、社会が向き合う必要がある。

樹木葬の霊園で手を合わせる女性(大阪府枚方市)

樹齢千年に及ぶオリーブの大木。それを囲むように墓地が区分されている。京阪奈墓地公園(大阪府枚方市)の「ハピネスパーク千年オリーブの森」は墓石でなく、樹木を墓標とする樹木葬の霊園だ。自然豊かなこの一画で、未婚のまま70歳代で亡くなった奈良県の女性も眠る。

女性は財産管理などを代行する成年後見制度を使い遺言書を作成。ここでの埋葬を希望した。初期費用を払えばその後の管理費は不要で、霊園が永代供養する。宗旨も問わない。運営する西鶴(大阪府交野市)の山本一郎社長は「1人で眠る未婚の人も多い」と話す。

「結婚は当然」の意識薄れ

子や孫ら墓を受け継ぐ人がいなくてもいい埋葬。今後、こうした形を選ぶ人が増えそうだ。

みずほリサーチ&テクノロジーズの試算では、未婚で亡くなる65歳以上の人は50年で約32万人となる。20年に比べ4.1倍に増える。高齢者の総死亡数に占める割合は18.1%と3倍弱の水準となる。

背景には未婚率の上昇がある。国立社会保障・人口問題研究所によると、50歳時点での男女の未婚率は1990年で4〜5%台。20年には男性で28.3%、女性で17.8%に高まった。経済力や子育てへの不安、女性の社会進出、生活の利便性向上など様々な要因から「結婚して当然」の意識が薄れた。

5人に1人が「ひとり死」に至れば、社会や慣習への影響は小さくない。

身寄りなく暮らす人の異変をどう察知するか。孤立は認知症や孤独死のリスクを高める。

同研究所の22年の調査では、一人暮らしの高齢男性の15%は2週間内の会話が1回以下にとどまった。女性の3倍、高齢夫婦世帯の5倍。みずほリサーチ&テクノロジーズの藤森克彦主席研究員は「男性は地域との接触が少ない」とみる。

広範な見守りが欠かせなくなる。日本郵便は全国約2万カ所の直営郵便局の職員が毎月、高齢者宅を訪れて体調などを確認するサービスを手掛けている。自治体などに情報を伝え、察知につなげる。人工知能(AI)を搭載するスマートスピーカーが体調などを毎日確認するサービスも22年に始めた。

墓のあり方も変わる。墓石型の墓の多くは継承する子孫がいないと管理が行き届かず、供養もされない。終活関連サービスの鎌倉新書の太島悠輔・お墓仏壇事業部部長は「墓石墓は年平均7000円ほどの管理費も必要になる」と話す。

同社が自社サイトを通じた墓の購入者を対象に23年に実施した調査では、回答者の52%が樹木葬を選んでいた。屋内の棚やロッカーなどに骨つぼを納める納骨堂が20%で続いた。

いずれも初期費用が比較的低く、供養もしてもらえるケースが多い。調査では平均購入価格は樹木葬が67万円、納骨堂は78万円で、墓石墓などの一般墓の4〜5割だった。使用に期限がなかったり、管理費を先払いできたりと「未婚者のほか、『子どもに迷惑をかけたくない』と選ぶ人も多い」(太島部長)。

遺品巡るトラブル、どう防ぐ

家具や衣服などの遺品を生前に整理する動きも広がるだろう。整理業者に頼めば家具の処分などははかどるが、高額な料金を請求されることもある。トラブルを防ぐ必要がある。

遺品整理士認定協会(北海道千歳市)によると、金額はワンルームで3万〜8万円、戸建て住宅で20万〜50万円がめどという。同協会の長谷川正芳常務理事は1人で判断して契約せずに、友人や成年後見人に相談することが有効と指摘する。

中には「(遺品整理で)見つけた金品を横領するケースもあった」(長谷川常務理事)。携わる人のモラル向上も狙い、同協会は法規制や業務上の注意点などを身につけた「遺品整理士」の認定を進めている。これまでに5万人強が資格を取得したという。

終活支援の一般社団法人、終活協議会(東京・豊島)の山石佳子・心託コンシェルジュは「相談セミナーには子孫がいる人も多く訪れる」と話す。子と離れて暮らし、伴侶を失えば誰もがひとりになりうる。それぞれが考えを整理し、社会が受け止めていく必要がある。

(サイエンスエディター 草塩拓郎、板垣孝幸、グラフィックス 藤沢愛、映像 森田英幸)

家族に頼らない福祉制度を

 小谷みどり・シニア生活文化研究所所長

未婚者の終活で特に問題になるのが男性だ。1990年ごろから女性よりも生涯未婚率が高くなり、現在は50歳時点で3〜4人に1人が未婚となっている。
高齢男性が亡くなる時は従来、妻子などの家族が介護や家財整理を担うことが多かった。だが2050年ごろには単身で介護が必要な80歳前後の男性が増える。遺体を引き取る人がいないケースも増えそうだ。
対策として第1に重要なのは、自立して生活できなくなった後に自分がどうしたいかを考えることだ。介護はどの施設や業者を利用するのか、病気で余命宣告を受けたら延命処置はするのかなど、頭と体がしっかり働くうちに決めておくべきことは多い。
次に頼れる人を見つけておくことだ。おいやめいら血縁者でもいいし、友人や近所の住民でもいい。
例えばゴミ清掃などのボランティア活動に参加すれば、体調不良の時に早めに気付いてもらえる。病気で家から出られなければ食事を運んでもらうなど、互いに助け合える。ペット飼育や料理など共通の趣味を持つ友人を増やすのも有効だ。
介護や通院の補助などを家族が担うのは日本の福祉制度の特徴だ。北欧では成人した子どもは家を出るのが当たり前で、福祉を家族に頼る発想は無い。日本でも親と子、孫の3世代が同居する家族はもはや少数派となっている。介護保険制度に続き、家族に頼らない福祉制度をさらに発展させるべきだろう。

<<Return to PageTop