トヨタ、揺らぐ効率経営 豊田会長「主権を現場に戻す」

トヨタ自動車グループの不正が止まらない。日野自動車、ダイハツ工業に加え、豊田自動織機でエンジンの認証手続きに関する不正の拡大が明らかになった。開発や納期の短縮を急ぐなか、現場の負担が重くなり不正につながった。強みの効率経営の持続性が問われるなか、不正がなぜ相次ぎ起きるのかを繰り返し自問し、グループの風土を変えていく必要がある。

「ご迷惑、ご心配をおかけしていることを深くおわび申し上げる」。トヨタの豊田章男会長は30日、名古屋市内で開いたグループビジョン説明会で、相次ぐグループの不正について謝罪した。

グループが成長する中で、「大切にすべき価値観や物事の優先順位を見失う状況が発生してきた」として「私自身が責任者としてグループの変革をリードする」と強調した。

豊田会長は各社で発覚した認証試験の不正について「認証において不正を働くということは顧客の信頼を裏切り、認証制度の根底を揺るがす極めて重いことであると受け止めている」と述べた。

ダイハツの不正が増加したのは、トヨタへの車両の供給が増えた2014年以降とされる。トヨタがダイハツを完全子会社化したのは豊田氏が社長を務めていた16年だ。ダイハツはトヨタの新興国の小型車戦略を担い、トヨタと一体で世界戦略を進めてきたともいえる。

見抜けなかった不正、豊田会長「ゆとりがなかった」

ダイハツの不正を見抜けなかったことについて豊田会長は「見てなかったというよりは見られなかった、というのが正直な見方だと思う」と語った。「ゆとりがなかった。トヨタを立ち上がらせるので精いっぱいだった」とも述べた。

トヨタグループビジョン説明会で記者の質問を聞く
トヨタ自動車の豊田章男会長(30日、名古屋市)

なぜ不正が相次ぐのか。各社の調査委員会の報告書からは短期の開発日程の厳守や、上に「できない」と言えない組織風土といった共通課題が浮かび上がる。

「量産開始日程を遅らせるのは会社に迷惑をかける」。豊田織機の調査委員会はある従業員がさらされたプレッシャーをこう紹介した。「うまく開発が進んでいないが、言っても聞いてもらえない中でやむなく不正に走った」

豊田織機の社員の間では「量産開始日の順守は絶対である」との認識が広がっていたという。

柔軟性のない日程が担当者を不正に追い込む過程も似ている。豊田織機では問題があっても上司や経営陣に共有されず、開発を遅らせるなどの対応がされなかった。

豊田織機の不正についての調査報告書には
「上司に相談したとしても無駄であると半ば諦めていた」
との証言が記載されていた

ダイハツでも「実際に相談しても『で?』と言われるだけ」。日野でも従業員の間に「どうせ言ったところで何も変わらないという諦め感」が広がっていたという。声をあげて問題を正す自浄作用は働かず、不正が起きてもモノを言えない空気が広がっていった。

29日に報道陣の取材に応じたトヨタの佐藤恒治社長も、豊田織機の不正の原因として同社との意思疎通面の課題を挙げた。佐藤社長は「(トヨタに)何も言われないようにしておきたいという心理が現場で働くコミュニケーションの状態だった。改善していくためにも両社でもう少し踏み込みたい」と話した。

組織体制の不備も共通する。豊田織機は21年に法規認証に特化した部署を設置したが、それ以前は専門部署が存在しておらず、専門家ではない従業員が複雑な法規則の内容を分析することを余儀なくされていたケースもあった。

グループの相次ぐ不正は3社にとどまらない。愛知製鋼は23年5月、顧客が求める許容範囲内の誤差よりも長い特殊鋼の鋼材を出荷していたと発表した。21年にはトヨタ自動車系列の複数の販売店で車検時の不正が見つかった。排ガスや速度計の検査を省略し、虚偽の整備記録を作成するなどした。

グループを代表する部品会社での不具合も目立つ。デンソー製の燃料ポンプでは断続的にリコール(回収・無償修理)が出ている。24年1月までに対象は30車種を超え、国内でのリコール台数は計約430万台となった。米国ではトヨタが23年12月に約100万台のリコールを届け出た際の原因が、アイシンの米子会社が製造したエアバッグ関連のセンサーだった。

巨大なピラミッド型の供給網にひずみ

トヨタ・レクサスの世界生産が23年に初の1000万台規模に到達したが、それを達成するために部品会社のフル生産が続いていた。不正は過去に起きた案件も多いが、供給網に負担がかかっていた点が、不正の遠因になった可能性も否めない。

トヨタグループでは、トヨタを頂点に部品メーカーが連なる巨大なピラミッド型の供給網(サプライチェーン)を築いている。豊田会長は「トヨタが発注者になっている場合も多々あるので、ものがいいづらいという点もあると思う」と述べた。

豊田会長は説明会に先だって、グループ17社の社長などを集めてグループビジョンを示した。「現場が自ら考え、動くことができる企業風土の構築に一歩進み始めたい」と語ったうえで「主権を現場に戻す」ことを目指したいと強調した。

豊田会長は「主権を現場に戻す」と語り、
ボトムアップ型の企業風土への変革を進める(30日、名古屋市)

不正を防ぐため、豊田会長は「グループの責任者」の対応として今後、グループ会社の株主総会にすべて出席する考えも明らかにした。「株主の立場、ステークホルダーの立場でトヨタグループを見る」として、各社と意見交換も進めていくという。

問題があればなぜを5回繰り返すのがトヨタ式

トヨタは顧客の注文に応じて車を生産する「トヨタ生産方式(TPS)」を採用している。TPSはトヨタの企業風土や思想を形づくってきた。

高い生産効率で知られるが、豊田会長は「目的は効率ではなく、改善が進む風土をつくることだ」と指摘。「異常を管理し、異常が大きくなる前に個別に潰していく体質が必要だ」と述べた。

本来、何か異常があれば生産ラインを止めて不良品をつくらないのが、TPSでは「アンドン」と呼ばれて重視される。だが、グループの現場では従業員が不正を認識しながらも、見過ごされていた。

問題があればなぜを5回繰り返し、その原因を徹底追求して改善するのがTPSの基本動作だ。不正がなぜ繰り返されるのか。今こそ、トヨタ式の真価が問われる。

(矢尾隆行、須賀恭平、野口和弘)


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