「デジタル小作人」円安で窮乏 日本の富は巨大 ITに流出

クラウドサービスは海外巨大ITのシェアが大きい

「1ドル=150円台は想定外だ。2024年3月期は円安でサーバーなどの費用が膨らみ利益を押し下げた。何とかしてほしい」。情報セキュリティーサービスを提供するデジタルアーツの谷崎文彦 IR室長は8日の決算発表で話した。

売上原価の3割を占めるサーバーなどの費用が24年3月期は13億円と前の期から約1.4億円増えた。対ドルの円相場は1ドル=144円で、会社想定(同135円)から9円も円安・ドル高に振れた。

同社はセキュリティーサービスの管理などに米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)のクラウドを使う。市場自体は拡大し売上高は1割増えた。経常利益(44億円)はほぼ横ばいで、コスト増が足かせとなった。

クラウドは幅広い企業で欠かせないツールになっている。経済産業省の資料では、国産のシェアは3割にすぎない。米アマゾン・ドット・コムマイクロソフト、グーグルなど海外のIT(情報技術)大手が存在感を示す。

「ファイルをクラウド上で保管するプランは月1402ドル、業務アプリケーションをクラウド上に移行するプランは月2059ドル」――アマゾンのサービス紹介を開くと、説明文は日本語だが表示される料金は米ドル建てだ。

デジタルサービスの海外依存はマクロ経済をも揺るがす。

日本と海外とのお金のやりとりを記録する国際収支統計によると、デジタル関連の国際収支の赤字は23年に5.5兆円となった。

前年比で16%増となり、この5年で2倍に膨らんだ。クラウド以外でも様々なウェブ関連サービスやソフトウエア開発などで、海外への支払いが受け取りを大きく上回る。

国内 IT勢は技術でも供給力でも対応できない。デジタルトランスフォーメーション(DX)を進めるほど「デジタル赤字」は拡大し、お金は国外に流れる。世界の中で日本企業全体が「デジタル小作人」の構図に置かれる。

政府も危機感を持つ。経済安全保障上の必要性もあり、国内企業による開発基盤の整備に力を入れる。経産省は4月、KDDIなど国内5社の基盤整備に725億円を補助すると発表した。

デジタル庁も、政府や地方自治体が共通の基盤上でシステムを運用する「ガバメントクラウド(政府クラウド)」を巡り、要件を緩和した上で、国内勢初となる提供事業者にさくらインターネットを選んだ。

もっとも国産クラウドの普及は一筋縄ではいかない。高くても海外勢が選ばれる背景には、使い勝手やセキュリティーで優れている面があるからだ。

三菱総合研究所の綿谷謙吾氏は「本格的な活用が見込まれる生成 AI(人工知能)も米国企業の競争力は高い。日本企業がサービスを活用すればするほど、デジタル赤字は拡大していく」と指摘する。 富の流出が止まる兆しはない。

デジタルで支払いが増えても、それを生かして別の分野で日本が世界に売り込めるモノやサービスがあれば、デジタル赤字は価値を生む投資となる。日本においてデジタル赤字が深刻になる裏側には、世界市場で稼げる産業が多くないという、産業競争力の低下がある。

誰もが作れる穀物しか育てられないなら、小作人は厳しい競争にさらされ、地主の意向に翻弄される。人と違うモノを生み出せるなら重用され、いずれ立場も逆転できる。「円安にもほどがある」のは事実だが、やれることもたくさんある。

(酒井恒平)

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