「10兆円ファンド」東北大、研究力で海外トップ校は遠く

「国際卓越研究大学」に認定される見通しとなった東北大学は、材料や半導体開発、医療分野などに強みを持つ国内有数の大学だ。ただ、現在の研究力は海外のトップ大学に水をあけられている。政府が創設した10兆円規模の大学ファンドを通じて得る巨額の資金を研究力の向上につなげられるかが今後問われる。

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東北大は文部科学省に示した資料で材料やスピントロニクス、未来型医療、災害科学の分野に強いことをうたっている。各分野を「トップレベル研究」として世界トップ10の研究拠点を目指す目標を掲げている。

歴史的に金属などの材料分野の研究をリードしてきた。電子の持つ磁石の性質を使う「スピントロニクス」分野では、次世代の省電力技術の核になる半導体開発に取り組む。磁石の向きで情報を記録するため電源を切っても情報が失われず、電力消費が少なくてすむ。

東北大キャンパス内に設置された巨大顕微鏡「ナノテラス」は研究力向上に貢献しそうだ(仙台市)

青葉山新キャンパス内で4月に稼働を始めた次世代放射光施設「ナノテラス」は、半導体材料や耐久性に優れる高性能電池の開発に利用でき、東北大の強みを伸ばすのに生かせる。東北大は産官学の研究者が集まるサイエンスパークを構築し、連携を強化してイノベーションを目指す。

医療分野では、世界有数のバイオバンクを持つ「東北メディカル・メガバンク機構」が有名だ。地域住民や3世代の約15万人を対象に追跡調査を実施し、ゲノム(全遺伝情報)や生体試料を保管、解析してきた。血液などの試料も数百万本と日本最大級だ。創薬などを目指し企業との共同研究にも複数取り組む。

大学には約1200床の病院もあり、約80万人の臨床データの蓄積も持つ。学内の工学研究科や生命科学研究科など10の部局が連携して、次世代の個別化医療の実現へ研究を進めている。

これまで育んできた研究基盤を生かしながら、国際卓越研究大学への認定を契機とした改革を進めて、世界のトップ大学に挑むことになる。ただ、海外トップ校などとの差は大きい。英教育専門誌タイムズ・ハイヤー・エデュケーションが公表した世界大学ランキング2024では東北大は130位だった。国内勢では、東京大学(29位)、京都大学(55位)に次ぐ3位だ。

オランダの学術大手エルゼビアのデータを日本経済新聞が分析すると、ほかの論文での引用回数が全体の上位10%に入る「注目論文(トップ10%論文)」の数で、海外だけでなく国内のトップ大学をも追う立場にある。2018〜22年の平均で、米ハーバード大学など米英中のトップ大学は数千本の注目論文を発表し、東京大学は約1300本、京都大学は約800本だったが、東北大は600本以下にとどまる。

論文全体に占める注目論文の割合でみても、海外勢は10%台後半から20%台半ばと高く、東大と京大も10%を超えるが、東北大は9.7%だった。東北大は25年後に、論文数を現在の6791本から3.5倍の2万4000本にする目標を有識者会議に示した。トップ10%論文は、現在の約9倍に増やす計画だ。論文の質と量の「二兎(にと)を追う」形で、世界のトップ大学と伍するのは容易ではない。「卓越」の認定で得られる巨額の資金を、どう研究成果につなげるか戦略が問われる。


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