藤井聡太八冠が誕生、史上初の独占 将棋王座戦を制す

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第71期将棋王座戦(日本経済新聞社主催、東海東京証券特別協賛)の五番勝負第4局が11日、京都市のウェスティン都ホテル京都で指され、午後8時59分、138手で後手の挑戦者、藤井聡太七冠(21)が永瀬拓矢王座(31)を破り、3勝1敗で王座のタイトルを奪取した。藤井新王座は将棋界に8つあるタイトル全て(八冠)を同時に制覇する史上初の偉業を成し遂げた。

対局を終えた藤井八冠は記者会見で「このような結果を出せるとは自分でも思っていなかった。そのことはうれしくおもう」と話した。1996年、当時の全冠に当たる七冠を独占した羽生善治九段(53)以来の全冠制覇となったことを問われると、「羽生先生の場合はその後もずっとトップとして活躍しておられる。私自身も、これからも長く活躍していきたい」と今後の抱負を語った。

将棋のタイトルはほかに竜王・名人・王位・叡王・棋王・王将・棋聖があり、藤井八冠は今回の王座戦を含め登場した18回のタイトル戦全てを制している。21歳2カ月での王座獲得は最年少記録。4連覇中だった永瀬前王座は、5連覇が条件の永世称号「名誉王座」の獲得を目指したが、成らなかった。

将棋界で三冠以上の全冠制覇を達成するのは升田幸三実力制第四代名人、大山康晴十五世名人、羽生九段に次いで4人目。藤井八冠はプロデビューから7年で羽生九段を超える金字塔を打ち立てた。

詰め将棋で鍛えた終盤力を武器に早くから逸材の呼び声が高く、読みの速さ、深さはトッププロの中でも群を抜く。プロ入り前から将棋AI(人工知能)を研究に取り入れ、最先端の戦型にも詳しい。

藤井八冠は2002年愛知県瀬戸市生まれ。16年、史上最年少14歳2カ月で四段昇段を決めプロ入り。デビューから連勝を続け、17年には歴代最多の29連勝を記録。「藤井フィーバー」を巻き起こした。

8割を超える高い勝率を維持し、20年の棋聖戦では史上最年少の17歳11カ月で初タイトルを獲得した。21年にはタイトル通算3期の規定により最高段位の九段に昇段。23年6月には20歳10カ月で名人を獲得し、最年少名人の記録を約40年ぶりに塗り替えている。

藤井八冠の活躍はファンの裾野を広げ、将棋界に新たなスポンサーを招き入れている。不二家は叡王戦を主催し、東海東京証券(王座戦)の他、伊藤園(王位戦)、綜合警備保障(ALSOK、王将戦)、コナミグループ(棋王戦)などが特別協賛社としてタイトル戦を支援する。

サントリー食品インターナショナルが主催する準公式戦「オールスター東西対抗戦」、立飛ホールディングスが特別協賛する公式戦「達人戦」といった新棋戦も生まれた。藤井八冠個人とは不二家、サントリー食品インターナショナル、日本AMDがスポンサー契約を結ぶ。

個人スポンサーの契約金は公表されていないが、22年に藤井八冠が獲得した賞金・対局料は1億2205万円だった。23年は、羽生九段が1995年に獲得した史上最高額1億6597万円を上回るとみられる。

日本将棋連盟会長・羽生善治九段の話

継続した努力、卓越したセンス、モチベーション、体力、時の運、すべてが合致した前人未到の金字塔だと思います。今後も将棋の更なる高みを目指して前進を続けられることを期待します。

藤井八冠、辛抱実り大逆転

藤井聡太七冠が八冠を達成した王座戦五番勝負第4局の将棋は、両者得意の戦型である「角換わり」で始まった。序盤早々、永瀬拓矢王座が23手目で▲4五桂と動き出した。事前に想定した展開になったとみられ、永瀬王座は時間をほとんど使わずに指し進めた。一方の藤井七冠は長考を繰り返し、一時は消費時間に3時間の差がついた。

その後、永瀬王座が2時間超の長考の末に指した▲7四歩(43手目)から、局面が大きく動き始めた。主導権を握った永瀬王座は、長期戦辞さずの戦い方で若干のリードを保つ。しかし藤井七冠も辛抱を重ねて守り続け、じりじりと形勢が接近して一進一退の攻防に入った。

終盤は二転三転、手に汗を握る展開となった。藤井七冠が先に5時間の持ち時間を使い切って1手1分以内に指さなければならない1分将棋に突入したところで、それまでの辛抱が実って逆転に成功。ところが明快な決め手を逃し、今度は永瀬玉が寄らなくなって再逆転となった。

(投了図は△5六歩まで)

ついで持ち時間を使い切った永瀬王座だが、着実に攻めて藤井玉をあと一歩まで追い詰めた。藤井七冠の投了間近と控室の見方が一致した最終盤、永瀬王座の▲5三馬(123手目)が痛恨の落手。逆に自玉が安全になった藤井七冠が、永瀬玉を確実に仕留めた。

解説の村田顕弘六段は「序盤、永瀬王座が前例のない新手を出した。藤井七冠も正確に対応して、難所を乗り切ったように見えたが、永瀬王座の研究が深くペースを握った。苦しくなった藤井七冠は時間を惜しまずに辛抱。それが実り、永瀬王座も焦る展開になった。終盤も激戦が続き、二転三転する大熱戦だった」と講評した。

〈指し手〉

▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩▲7六歩△3二金▲7七角△3四歩▲8八銀△7七角成▲同銀△2二銀▲1六歩△1四歩▲3八銀△3三銀▲3六歩△6二銀▲3七桂△7四歩▲4六歩△7三桂▲4五桂△4四銀▲2四歩△同歩▲同飛△2二歩▲3七銀△8六歩▲同銀△4五銀▲同歩△5五角▲2七飛△9九角成▲7七角△同馬▲同桂△5二金▲7五歩△8四飛▲7四歩△同飛▲3八角△5四飛▲7四歩△5七飛成▲5八銀△5五竜▲7三歩成△同銀▲8三角成△6四銀▲7六桂△4二玉▲6四桂△同歩▲4六銀打△5四竜▲7四馬△6五歩▲同馬△6三竜▲5五銀△6二竜▲4六銀上△5四桂▲同銀△同歩▲7四歩△7二歩▲5四馬△3一玉▲5五馬△6四銀▲5六馬△5四桂▲5五銀△同銀▲同馬△4六角▲5四馬△5三香▲7六馬△5七歩▲5四歩△5八歩成▲同金左△5七歩▲同金△5四香▲同馬△5七角成▲同飛△5六歩▲7五角△4二金右▲5八飛△5七銀▲6三銀△5八銀不成▲同玉△5七銀▲同角△同歩成▲同玉△5一竜▲5二歩△8一竜▲8五香△6一竜▲6二銀打△同竜▲同銀成△2三歩▲5一歩成△3七角▲5二と△同金▲同成銀△5五銀▲5三馬△2二玉▲3八桂△5六歩▲6八玉△9八飛▲7八桂△5七歩成▲同玉△7八飛成▲4七金△6六桂▲5八歩△同桂成▲同金△5六歩まで138手で藤井七冠の勝ち