遠い「最先端 IT国家」 宣言20年、なお10位圏外

旗振り役の行政に遅れ 骨太方針

政府は17日に決めた2020年の経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)で、行政手続きなど社会のデジタル化を柱に据えた。約20年前にも「5年以内に世界最先端のIT(情報技術)国家となる」と宣言しながら、IT競争力や電子政府を巡る評価は世界10位以下を定位置とする。旗を振る行政が遅れの原因となっており、反省なしに先行国には追いつけない。(1面参照)

世界経済フォーラムなどがまとめてきたIT競争力ランキングで、日本は19年に12位だった。同ランキングは導入するITの技術水準の高さや国民のインターネット利用率、デジタル関連の規制などを総合的に評価する。日本は81位の携帯電話料金や18位の行政部門、38位の規制などが全体の順位を押し下げた。

テレビ会議すら

世界最先端をめざした01年の「e-Japan戦略」をはじめとして政府はIT戦略や政策集を毎年まとめてきた。世界で評価される実際の順位は00年代から10~20位台が続く。骨太の方針に記した「デジタル化の遅れや課題を検証・分析する」ことが欠かせない。

電子政府の進み具合は国連のランキングで14位に沈む。新型コロナウイルス対策の1人10万円の給付金は100以上の自治体がオンラインの受け付けを停止した。霞が関の省庁間ではシステムの仕様の違いからコロナ対策を協議するテレビ会議すらできなかった。

日本総合研究所の野村敦子氏は「省庁や自治体ごとにバラバラのシステムが電子政府を阻んだ一因だ」と指摘する。ランキングで首位のデンマークと2位の韓国は「省庁横断でデジタル化を進める権限を持つ組織をつくり成功した」という。

骨太の方針では「国・地方を通じたデジタル基盤の統一・標準化」を掲げた。ただ中央省庁のLAN(構内情報通信網)の統合は25年を想定する。システムを標準化する自治体事務の範囲はこれから定める。「相変わらずスピード感と具体性を欠く」(野村氏)

ランキング3位のエストニアは個人認証に必要なIDカードをほぼ100%の国民が保有する。日本のマイナンバーカードは2割弱だ。持つ利点がわかりにくいため普及せず、ネットでの行政手続きが広がらない。

自民党のIT戦略特命委員会が16年に示した工程表に従えば、18年に運転免許証と機能が一体化し、保有の利点が増していた。政府が免許証との一体化について「検討を開始する」と記したのは今回が初めてとなる。

企業投資進まず

「e-Japan戦略」の策定に有識者として関わった竹中平蔵東洋大教授は「通信インフラの整備は成功したが、規制で自由なビジネスができなかった」とふり返る。

代表例として挙げるのがライドシェアと民泊だ。日本では自家用車に客を乗せることは「白タク」として禁止されたままだ。民泊は営業日数の上限が年間180日。こうした既存の事業者を守る規制のため、ネットを使った新サービスの普及で米国や他のアジアの国に後れを取った。

事業のしやすさを評価する世銀のビジネス環境ランキングで日本は29位まで順位を落とした。なかでも事業の始めやすさは106位に沈む。骨太の方針は規制改革を掲げるが、具体性は乏しい。コロナで時限的に解禁した初診などのオンライン診療は恒久化の道筋がつかなかった。

企業もIT投資に消極的だ。経済協力開発機構(OECD)によると、日本企業は00年から17年までにIT投資を2割減らした。この間、米国が6割増、フランスが2倍になった。

日本企業は機械や装置に投資するが「目に見えない(ソフトウエアなどの)無形資産に価値を認めてこなかった」(竹中氏)。ソフトウエアに対する研究開発減税の対象が欧州に比べて狭いなど政策支援の弱さも投資が伸びない一因となる。

システム会社も競争力をなくした。省庁や自治体がバラバラにシステムを構築し、日鉄ソリューションズやNTTコミュニケーションズ、富士通が請け負う。行政から安定した収入が見込める国内に安住した。もたれ合いで縮小均衡に陥った。