日本の物価伸び率、米国を8年ぶり逆転 
賃金上昇は鈍く

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Nikkei Online, 2023年7月21日 11:35更新

レンタカーなどサービス価格の上昇がデフレ脱却のカギを握っている
(夏の観光シーズンを迎えた沖縄県内のレンタカーの営業所)

日本の6月の消費者物価指数(CPI)は生鮮食品も含む全体の指数が前年同月比3.3%のプラスとなり、3.0%の米国を追い抜いた。約8年ぶりの日米逆転だが、賃金の伸びは見劣りする。岸田文雄政権が目指す「物価と賃金の好循環」は遠い。賃上げが進まないと消費が冷え、成長に響きかねない。

総務省が21日発表した6月の消費者物価指数は、変動の大きい生鮮食品を除く指数が前年同月比で3.3%上昇した。上昇率の拡大は2カ月ぶりだ。日銀が物価安定の目標とする2%を15カ月連続で上回った。3%以上になるのは10カ月連続となる。

電力大手による6月1日からの家庭向け電気料金の値上げが背景にある。電気代は前年同月比12.4%のマイナスと、5月の17.1%低下からマイナス幅を縮めた。

インフレ退治の利上げの効果が表れ始めた米国とは対照的に、日本は高止まりが続く。生鮮食品も含む全体の指数の日米の逆転は2015年10月以来だ。

中長期でみると日本の物価高は米欧とは差がある。世界的にインフレが加速した21年1月以降から足元にかけて、米国とユーロ圏の物価は16〜17%上昇したのに対し日本は5%にとどまった。

ポイントは賃金の上昇を伴っているかだ。経済協力開発機構(OECD)によると、米欧はこの間に民間の時間当たり賃金が14.5%、7.4%伸びた。日本は4.5%と見劣りする。

こうした状況は物価にも表れる。モノは原材料高が値上げの主因だが、サービス価格は人件費に大きく左右されるからだ。

日本の6月の消費者物価をモノとサービスに分けると、生鮮食品を除くモノは4.9%プラスで2カ月ぶりに上昇幅が拡大した。生鮮食品を除く食料は9.2%のプラスで上昇率は横ばいで、全体のプラス幅の6割を占める。

サービスは持ち家を借家と見なして計算する「帰属家賃」を除くと2.3%プラスだった。7カ月ぶりに上昇率が鈍化した。消費増税の時期を除くと29年8カ月ぶりの上昇幅とはいえ、価格転嫁が進むモノ主導の物価高の構図が続く。

レンタカー料金は18.6%プラスと3カ月連続で最高に、習い事などの月謝類も2.4%プラスと約3年ぶりの上昇率となったが、全体でみるとプラス幅の広がりは限定的だ。

新型コロナウイルス禍からの正常化で堅調な宿泊料(5.5%)や外食(6.0%)の上昇率は鈍化した。

米国の6月のサービス(家賃除く)の上昇率は3.2%だった。22年9月は8%台に達していたが、米連邦準備理事会(FRB)の利上げの効果もあり、落ち着いてきた。ユーロ圏のサービスは6月は5.4%プラスだった。

日本もバブル経済崩壊後、消費増税の時期を除くと1992年秋まで3%台が断続的に続いていたことを考えると、足元の伸びは力強さを欠く。

米国のような過熱した状況はFRBが利上げで抑えたことから望ましい状況ではないが、日本はサービスの上昇率からみても適度に物価と賃金が上昇するサイクルに入っていない。

物価が高止まりしても賃金が上昇しなければ日銀の金融政策の判断は難しさを増す。日銀は植田和男総裁の就任後初めてとなる4月の金融政策決定会合で、金融政策のフォワードガイダンス(先行き指針)に「賃金の上昇を伴う形で」物価目標を実現するとの方針を明記した。

サービス業では一部の業種で人手不足を背景に時給が上がるが、幅広く賃上げが続くかは不透明な状況にある。賃上げが息切れすれば家計は細り、消費は落ち込みかねない。サービス業の生産性向上など、中小企業の賃上げ余力を高める政策が欠かせない。

日本は物価の伸びが米国を上回ったとはいえ、中期では物価も賃金も米欧ほどの勢いはない。輸入物価は既にマイナスに転じており、インフレ率は今後鈍化していく公算が大きい。

日本の生鮮食品とエネルギーを除く指数は4.2%のプラスで、5月の4.3%プラスから縮んだ。下げ基調になるのは17カ月ぶりで物価の基調は強くないとの見方もある。賃金と、それに連動したサービス価格の上昇が続くかがデフレ脱却や物価安定のカギを握る。

(広瀬洋平)


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