Nikkei Online, 2024年9月3日 19:21
政府は3日、岸田文雄政権で最後となる経済財政諮問会議を開き、経済政策に関する成果をまとめた。名目の国内総生産(GDP)や国内企業の経常利益が過去最高に達したとする自己評価を示した。日銀が異次元緩和を転換した一方で、政府による脱デフレ宣言はいまだなされず、成長には課題が残る。
「33年ぶりの高い水準の賃上げ、過去最高の設備投資、史上初めて600兆円を超えた名目GDPといった成果が表れている」。首相は3日の会議で強調した。会議の資料では45の経済指標を列挙し、税収などが「過去最高水準」だと明記した。
名目GDPは4〜6月期に年率換算で初めて600兆円台に乗せた。2015年に当時の安倍晋三首相が打ち出した政策目標をおよそ9年かかって達成した。岸田政権の発足時と比べてGDPは名目で10%増えた。
ただ、物価上昇分を除いた実質で見ると、成長は3%増にすぎない。潜在成長率も0.6%と低く、主要7カ国(G7)で最低にとどまる。
8月に公表した24年度の経済財政報告(経済財政白書)ではロシアのウクライナ侵略などを念頭に「輸入物価の上昇を国内物価の持続的な上昇につなげた」との見解が示された。外的要因による物価上昇に頼っている面は否めない。
24年の春季労使交渉(春闘)は賃上げ率が5%台に達し、33年ぶりの高水準となった。もっとも物価上昇に賃金は追いつかず、実質賃金は6月にプラスに転じるまで2年2カ月連続でマイナスが続いた。
GDPの過半を占める個人消費も伸び悩んでいる。4〜6月期は実質の年率換算で297兆円と新型コロナウイルス流行前の水準である19年平均の300兆円をなお下回る。政府がデフレ脱却を宣言できない理由がここにある。
首相は21年9月の自民党総裁選で「令和版所得倍増計画」をかかげながら、同年10月の衆院選では公約として明示しなかった。代わりに出てきたのが「資産所得倍増プラン」だった。
新しい少額投資非課税制度(NISA)の拡充などが奏功し、家計の金融資産は過去最高の2199兆円にまで増えた。日経平均株価は24年7月に過去最高の4万2224円をつけた。株価は8月に乱高下するなど消費者心理を揺さぶっており、目配りは欠かせない。
企業部門は好調に推移した。株高の根拠となった企業業績は円安の進行で製造業を中心に追い風となり、国内企業全体で経常利益は過去最高になった。設備投資も4〜6月期に名目の年率換算で106兆円と過去最高をつけた。
企業の利益など付加価値に占める人件費の割合を表す「労働分配率」でみると、まだまだ心もとない。4〜6月期は直近4四半期の移動平均で大企業が37.6%と過去最低だった。内部留保にあたる利益剰余金は積み上がっており、23年度に初めて600兆円を超えている。
好調な企業業績と物価高を背景に、国の税収は23年度に72.1兆円と過去最高まで押し上がった。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの小林真一郎氏は「利益の増加に比べて人件費としての還元は限定的で、家計部門に恩恵は行き渡っていない」と指摘する。
政府の財政に関しては、国と地方を合わせた基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)が目標年次の25年度に黒字化するとの試算を初めて出した。黒字幅は8000億円しかなく、大型の補正予算を組めば、実現は難しくなる。
国と地方の債務残高がGDPの2倍を超えて膨らむなど不安材料も少なくない。支出規模の拡大を先行して決めた防衛、少子化対策、グリーントランスフォーメーション(GX)、半導体の財源難「4兄弟」問題も残る。
次の政権には企業の生産性向上につながる労働市場改革など成長戦略が求められる。物価高による税収増以外の財源確保に向けても重要度を増している。