デフレ発想捨て賢い支出を 補助金で競争ゆるめるな

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次の国づくり⑥成長戦略 新浪剛史・経済同友会代表幹事

Nikkei Online, 2024年11月8日 2:00

にいなみ・たけし 1981年(昭56年)慶大経卒、三菱商事入社。
米ハーバード大院で経営学修士号を取得。ローソン社長を経て2014年にサントリーホールディングス社長。
23年から経済同友会代表幹事。政府の経済財政諮問会議の民間議員を務める。65歳

経済政策の主役はデフレ時には財政出動だった。新型コロナウイルス禍ではさらに拡張した。これからはインフレの時代に合った運営に変えていくべきだ。モノの値段が上がっていくので民間企業が早く動く。経済に活力が出てくる。

昔のままの財政政策で「まだデフレだ」と思って動かない企業への何かしらの補助に動けば、デフレ脱却の好機を逃す。効果のないものはやめなければならない。
インフレ社会のダイナミズムとして大企業も中小企業も競争すべきで、政府はそれを妨げるような補助金で競争を緩めてはならない。EBPM(根拠に基づく政策づくり)を進めるチャンスだ。

あえてやってもいいと思う財政政策は減税だ。思い切った省エネ減税で技術進歩を促すなど、産業にプラスになるやり方ならいずれ税収として返ってくる。防衛や少子化対策、社会保障といった財政需要がすでにあるなかで、潜在成長率を上げるための施策を選ぶ「賢い支出」が必要になる。

人が足りない時代は賃金を上げてから生産性を上げる仕組みに変わる。人件費が上がるなら手を打たないといけないからだ。最低賃金が1500円になると思えば、デジタルトランスフォーメーション(DX)などに投資するようになる。

3年でこれだけ上がるという予見性が重要になる。予見性がなくこのままだと思えば、現状維持で駄目になる。経済同友会が掲げる「3年以内に1500円」が絶対だと言っているわけではないが、目線を思い切り上げないといけないとの危機感を持つ。最低賃金は職種ごとにあっていい

今後は人を集められない会社は新陳代謝の対象になる。経営者が優秀なら会社は継続するし、生産性の高い企業に人が移っていくのが望ましい。政府はリスキリング(学び直し)などで安心感を持てる仕組みをつくってほしい。大企業は中小企業に価格転嫁を認めていかねばならない。

健康で働きたいだけ働ける社会をつくるには全世代で学び直しが要る。生涯年収が増えれば消費にもプラスになる。労働移動はすでに始まっている。政府はどのようなスキルを身につければどの程度の年収になるかが分かるプラットフォームをつくり、どんどん移動を後押しすべきだ。

低廉なエネルギーも恒常的な賃金向上につながる。日本の国際競争力が落ちたのはエネルギーコストが高いからだ。次世代原子力発電「小型モジュール炉(SMR)」や核融合発電の実験を日本でできるようにしたい。安全で安心な技術を追い求めていくのはまさにイノベーションだ。

政府が原発の新増設や建て替えの選択肢を否定してしまえば、技術者を養成できなくなる。日本は低廉なエネルギー源がなくなり、国際競争力がさらに落ちて賃金は上がらなくなる。

石破茂首相には「この国の将来はそれでいいのか」と問いたい。新増設を明示しないことに経済界は反対だ。人工知能(AI)にもデータセンターにもエネルギーは必要になる。

政治資金は収入よりも支出が不明確な点が問題だ。自民党が政治とカネの問題に消極的だとの受け止めがあるなかで非公認候補の党支部への2000万円支給で「反省していない」と思われた。政策を議論する会食などは認められていい。国会で堂々とこれは必要だと議論し、直すべきものを直せばよいと考える。

(聞き手は根本涼)

 

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