Nikkei Online, 2025年9月7日 20:33更新
石破茂首相は7日、首相官邸で緊急記者会見を開き「自民党総裁を辞する」と表明した。事実上の退陣勧告である総裁選の前倒し要求が広がる状況を受けて続投を断念した。自民党は近く後継を選ぶ総裁選の手続きに入る。
首相はこのタイミングで辞任を決めた最大の理由として米国との関税交渉の合意を挙げた。トランプ米大統領が自動車関税の引き下げを含む大統領令に署名したことで「一つの区切りがついた」と説明した。
退陣表明によって8日に予定していた自民党総裁選を前倒しするかを判断する手続きはなくなった。首相辞任に伴う総裁選を実施し、首相は自らの立候補はないと明言した。党内は出馬に向けた動きが加速する。
自民党の森山裕幹事長は7日の記者会見で、次の総裁選は「できるだけ党員の皆さんが直接参加できる形を模索することが大事だ」と述べた。
首相は7月の参院選で非改選をあわせて自民、公明両党で過半数の議席確保を必達目標にしていたが届かなかった。選挙での相次ぐ大敗により退陣要求が強まっていた。森山氏をはじめとする党四役が辞意を示し、政権運営の継続は難しくなっていた。
任期途中で総裁選を前倒しするかの判断期日が迫るなか、首相に近かった議員や閣僚からも退陣を求める声が出てきた。6日夜には菅義偉副総裁や小泉進次郎農相が辞任を促した。
首相は記者会見で、7月の参院選の敗北について「責任は私が負わねばならないとずっと思っていた」と強調した。その上で「まだやり遂げなければならないことがある中で身を引く苦渋の決断をした」と話した。
旧安倍派などによる「政治とカネ」の問題に関しては「不信払拭はできていない。最大の心残りだ」と述べた。「自民党が信頼を失えば日本の政治は安易なポピュリズムに堕するのではないかと危惧を強めた」と解党的な出直しを求めた。
1年弱の政権運営については、少数与党に陥った状況で「真摯で誠実な国会審議に努めてきた」と振り返った。野党と連携した能動的サイバー防御関連法の成立や所得税の非課税枠「年収の壁」の引き上げといった成果を強調した。
物価高対策として重視してきた賃上げは、最低賃金の全国加重平均の上昇額が過去最大になったと訴えた。政権の重要政策として取り組んできた地方創生や防災対応の強化、コメ政策の転換などにも言及した。
首相周辺からは強まる退陣圧力への対抗策として衆院解散・総選挙に踏み切る案が出ていた。記者会見で衆院解散の選択肢があったかを聞かれると「色々な考えがあったことは否定しない」と答えた。
石破内閣の支持率は参院選後に上昇していたが、党内基盤が弱く退陣要求にあらがえなかった。
「国民の考えと党に乖離(かいり)があることをどう考えるか。そのことを常に考えなければならないと思ってきた」と発言した。