Nikkei Online, (2025年10月4日 18:08更新
自民党総裁選で高市早苗前経済安全保障相は党員・党友票で他候補を圧倒して議員票をたぐり寄せた。保守的な政治スタンスの高市氏に支持が集まった。議員投票の直前に麻生派が事実上、高市氏を支持する方針を出したことがダメ押しとなった。

高市氏は1回目の投票では党員票の4割を押さえ、小泉進次郎農相に35票差をつけた。その一方で議員票は小泉氏を16票下回った。党員票で優位に立ち、議員票の差を埋めて決選投票に臨むという想定通りの展開となった。
事前の予想では議員票の比率が大きくなる決選投票は高市氏に不利とみられていた。それを覆したのは何か。
議員投票が始まる前、党内には都道府県ごとの党員票結果の数字が出回った。「トップは高市氏ばかりだな」と想定を上回る得票に驚きの声があがった。
2027年の統一地方選を控え、地方議員には保守層の自民党離れへの危機感が強まっている。7月の参院選で「日本人ファースト」を掲げた参政党が躍進したためだ。国会議員は地元に戻れば誰に投票したかを聞かれる。「地元の意思」には重みがあった。
各議員が党員票での高市氏の勢いを意識したところへ、もう一つの情報が駆け巡った。「麻生派議員に決選投票で党員票の多い候補を支持するようにとの指示が出た」。事実上、高市氏への投票要請だった。
党内で唯一残る派閥、麻生派には43人が所属する。推薦人は林芳正官房長官以外の4候補の陣営に分散していたが、決選投票ではまとまる公算が大きくなった。
茂木敏充前幹事長も麻生太郎最高顧問と気脈を通じる。決選投票に進めないとみられていた茂木氏には、決選投票で麻生氏と行動を共にするとの見方が出ていた。陣営の中心である旧茂木派の衆院議員が同調する可能性が浮上した。
小林鷹之元経済安保相の陣営には保守的な政策を求めるグループがいる。この議員票も決選投票では高市氏に向かうとの分析があった。決選投票では議員票が伸びるとの観測が広がった。これが勝ち馬に乗ろうとする議員心理に働いた。
高市氏も幅広い議員から支持を取り付けられるよう腐心した。昨年の総裁選では首相就任後も靖国神社参拝を続けると表明していた。今回は対応を明言せず、外交政策を懸念する議員に配慮した。決選投票が始まる前の5分間の演説は総裁選を支える仲間への感謝から始めた。
党内には「タカ派色の濃い高市氏は野党の協力を取り付けにくい」との見方が多い。少数与党で野党と連携できなければ予算も法律も成立せず、政権運営は暗礁に乗り上げる。そうした不安の払拭に努めた。
総裁選では「票のかたまり」を持つ派閥や旧派閥を頼る動きが目立った。総裁選を巡っては高市氏や小泉氏、茂木氏らが麻生氏と面会した。
旧岸田派は解散してからも人的なつながりが残っている。岸田氏の側近だった木原誠二選挙対策委員長らは小泉陣営の中枢で動いた。旧岸田派でナンバー2の座長だった林氏への支持も多かった。
かつてのように派閥が自らの派内で育てた総裁候補を押し上げるような総裁選ではない。それでも各陣営が派閥・旧派閥の領袖をなお頼る構造が見えた。
自民党は7月の参院選大敗を受けて「解党的出直し」が必要だと総括した。新総裁は支持を受けた派閥・旧派閥に配慮するような人事をしないか。無派閥だった議員からは「旧態依然で変われない自民党の姿が浮き彫りになりかねない」との声がもれる。