[社説]一人ひとりに戦争の自省促す首相所感

<<Return to Main

Nikkei Online, 2025年10月11日 19:05

戦後80年にあたっての所感を発表した石破首相(10日、首相官邸)

石破茂首相が戦後80年にあたっての所感を発表した。我が国が無謀な戦争に突き進んだのは、無責任なポピュリズムとそれに迎合した政府や議会、メディアなど複合的な要因があったからだとして「大勢に流されない政治家の矜持(きょうじ)と責任感を持たなければならない」と訴えた。

所感には自民党内の不要論や退陣間際の駆け込みを疑問視する声もあった。一方で戦後50年談話から節目ごとに続けてきたのが途切れれば、日本の姿勢を問われかねない。通説に沿った内容で、過ちを繰り返さない決意を政治リーダーが内外に発する意義はある。

日米開戦前に首相直属の「総力戦研究所」などが敗戦は必然だと結論づけたにもかかわらず戦争を止められなかったのはなぜか。大日本帝国憲法のもとで政治と軍事を適切に統合する仕組みがなく「文民統制」の原則が制度上存在していなかったなどと分析した。

1940年に戦争を批判する「反軍演説」によって衆院から除名された斎藤隆夫議員の当時の議事録の3分の2が削除されたままであるのも問題視した。メディアの論調も31年の満州事変の頃から「積極的な戦争支持に変わった」とし、新聞の大々的な報道に多くの国民が幻惑され、ナショナリズムがさらに高まったと指摘した。

そのうえで「冷静で合理的な判断よりも精神的・情緒的な判断が重視されることで、国の針路を誤った歴史を繰り返してはならない」と警鐘を鳴らした。世界を覆う排外主義的な動きや、民主主義の後退による社会の分断が日本でも進むことへの危機感だろう。

過去の首相談話の歴史認識は引き継ぐとした。それらが反省や謝罪など外国からどう見られるかに力点があるのに対し、国内向けに自省を促す内容になっている。

閣議決定でなく首相個人の見解という形式をとった。反発を抑えようとした結果、文言に重みを欠いた面も否めない。中国や韓国にも触れていないが、「過去を直視する勇気と誠実さ」「他者の主張にも謙虚に耳を傾ける寛容さを持った本来のリベラリズム」は近現代史へのこだわりがみえる。

戦争を直接知る世代が急速に減るなかで、繰り返したのは歴史に学ぶ重要性だ。現在の状況を世界が軍国主義やブロック経済に走った30年代と重ねる向きもある。国民一人ひとりがあらためて戦争と平和を考える機会にしたい。

 

<< Return to PageTop